JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS04] 強震動・地震災害

コンビーナ:染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)

[SSS04-P03] 2011年東北地方太平洋沖地震時に福島県東部地域で観測されたパルス状波群の解析

*植竹 富一1引間 和人1新村 明広1藤岡 将利1杉本 良介1 (1.東京電力ホールディングス株式会社)

キーワード:速度パルス、走時解析、サイト特性、アレイ解析

1.はじめに
 2011年東北地方太平洋沖地震(M9)の強震記録は広域で得られ,その波形の特徴は地域毎に異なっていた.福島県東部で得られた記録には,大振幅のパルス状波群が複数見られた.これらのパルスは,断層面上に存在する強震動生成域(SMGA)から放出されたものと考えられ,複数のSMGAが考慮された震源モデルが提案されている[例えば, Asano and Iwata(2012), Kurahashi and Irikura(2013)].また,パルス波と断層面上の高周波励起源との対応を強震記録のアレイ解析により確認している研究[青木・他(2012)]もあるが,福島県東部の多数地点の記録を用いてパルス波群の対比・同定は行われていない.本研究では,福島県東部で得られた多数の強震記録に着目し,パルス波群の対比・同定を通じて,パルス状波群の伝播・形状変化について検討する.

2.検討対象記録・波群
 検討対象とした記録は,2011年東北地方太平洋沖地震により福島県東部で得られた強震記録である.この地域でも防災科技研(K-NET,KiK-net)の加速度計や気象庁・自治体の計測震度計などにより,数多くの強震記録が得られている.本研究では,各観測点で得られた加速度記録を積分して作成した速度波形を検討に用いた.なお,積分の際,周波数下限を0.05Hzとするハイパスフィルターを掛けることを原則としたが,低周波数側のSNの悪い記録については、適宜下限周波数を上げて0.1Hzないし0.2Hzとした.
 海岸線に沿った観測点の速度波形(EW成分)を図に示す.速度波形には見かけ周期の異なる複数のパルス状波群が確認されるが,本検討ではFKSH20地点で最大値を与えるパルス波を対象とした.波形を隣接する観測点と対比することにより伝播性状や形状の変化を確認する.

3.波群の伝播性状
 隣接した観測点で波群の時間的連続性を見ていくと,対象とした波群は,海岸線沿いには福島県の北から南まで確認できる.また,内陸側では阿武隈高地の広い範囲で波群が認識できる.図に示すように波群の等走時線を描くと,北緯37度線のやや北側を中心とした同心円状となる.波群がS波であると仮定して,走時表JMA2001[上野・他(2002)]を用いて震央位置を推定すると星印付近(東経141.35度,北緯37.10度)となる.この位置は,青木・他(2012)の評価した高周波の到来方向(福島第一原子力発電所から見てN140Eの方向)と整合的であり,Kawabe and Kamae(2013)の震源断層モデルで設定された福島県沖のSMGAに近い.

4.波群の振幅・形状の変化
 波群の形状に着目すると,SMGAに近いFKS010などでは三角形のパルスであるが,海岸線に沿って北にやや離れると正弦波的なパルスが明瞭となる.なお,速度波形を用いてマルチフィルター解析[Dziewonski(1969)]を行うとパルス部分には0.5Hzが卓越している.FKSH14より南側では,別の波群が重なってくることもあり,波の繰り返し数が増えて,パルス的な形状ではなくなる.内陸部の記録では,パルスの卓越周波数がより高い周波数にシフトしている.また,パルスの振幅が下がり,形状も不明瞭となり波群の対比が困難な観測点も多い.
 対象としたパルス波の振幅が最も大きいのは,海岸沿いに北側に離れたFKSH20における記録であり,SMGAに近いFKS010の2倍弱となっている.また,等走時線上の観測点でも振幅が異なっており,単純な距離減衰では説明できない.振幅を含め波群性状の変化には,サイト特性の影響が大きいと考えられる.

5.おわりに
 東北地方太平洋沖地震の際に福島県東部で観測された強震記録に確認されるパルス状の波群について,伝播性状や波形の変化を調べた.各記録の対応する波群の走時から見て,この波群は福島県東方沖のSMGAで発生したものと推定された.また,パルスの形状や振幅の空間変化を考えると,サイト特性が強く影響していると考えられる.

謝辞
 解析には,東京電力ホールディングスの観測データの他,以下の機関による強震観測データを用いました.記して感謝いたします.防災科学技術研究所(K-NET,KiK-net),気象庁・自治体(計測震度計),国土技術政策総合研究所,地震予知総合研究振興会,電力中央研究所.