[SSS04-P21] 阿蘇地域における微動アレイ観測にもとづく浅部・深部統合地盤モデルの構築
キーワード:S波速度構造モデル、常時微動、強震動予測、アレイ観測
1.はじめに
強震動予測を高度化するためには、広帯域の地震動特性を評価できるような地盤モデルの構築が重要な課題の1つである。そのためには、これまで別々にモデル化を実施してきた浅部地盤モデルと深部地盤モデルを統合し、観測記録を再現できるようなモデルの作成を進めていくことが不可欠である。本研究では、平成28年熊本地震において、液状化等の地盤変状が多く確認された阿蘇地域全域において、表層地盤の構造および工学的基盤の深さ分布を確認するため、K-NET、KiK-net、気象庁、および自治体等の地震観測点における地震記録と、多数の常時微動によるアレイ探査および単点(H/Vスペクトル比)の記録を面的に収集した。また、阿蘇地域の地盤モデルを構築するための基礎検討として解析結果よりS波速度構造モデルを検討した。本報告では、微動アレイ観測結果、および、浅部・深部統合地盤モデル構築の検討結果について報告する。
2. 地盤構造モデル検討のための微動観測データについて
本研究では、阿蘇地域(阿蘇谷・南郷谷)の低地・台地部全域において、常時微動観測を実施した。ここでは観測方法として、2種類の微動アレイ観測を実施している。1つは極小アレイ観測で、主に公的建物の敷地や公道等において約500地点で実施した。なお、本結果の検討においては、大保・他(2018)1)の極小微動アレイ観測結果も活用している。大きめのアレイ観測は、K-NET、KiK-netおよび自治体の震度観測地点等の8地点でそれぞれ実施した。観測には一体型常時微動観測装置JU-410(白山工業社製)を用いた。極小アレイ観測は、60cmの4点による三角形のアレイと5~15mの不規則アレイを約500m間隔にて行い、15分の観測を行った。微動アレイ観測については、約5km間隔で設定し、半径R=400m、200m、100mの大きさの三角計の大アレイと、それよりも小さな半径については、一辺75m、50m、25mのL字アレイ(一部R=10~60mの三角アレイ)を展開した。大アレイについては、2時間程度、L字アレイ等は30分程度の観測を行った。
3.微動探査結果
3.1 AVS30の分布と特徴
微動アレイ解析結果のAVS30より、微地形区分ごとに明瞭に異なることが分かった。これまでに実施してきた、熊本平野等の他の地域(例えばSenna et al.,(2018)2))に比べると扇状地の値が小さい。自然堤防・後背湿地ではばらつきが小さく、値も小さい傾向にある。他の地域では、基盤からなる丘陵・山地の近傍では、斜面の延長部にあたる侵食面が地下浅部に埋没しているために表層の堆積物が薄くなるためにAVSが大きくなる傾向があると考えられる。このため、同じ微地形区分の中でも値のばらつきが生じている。一方、カルデラの陥没に伴い形成されたカルデラ内縁斜面は急傾斜で地下に埋没しており、埋積している沖積層の層厚は低地縁辺部でもかなり厚い(むしろ縁辺部ほど厚い)と推定される。また、火山山麓地の値は砂礫質台地と同程度かやや小さく、谷底低地の値が最も大きい。これは他の地域とは異なる傾向であり、堆積物が薄くVsの大きい基盤が浅部から出現するためと推定される。なお、カルデラ全体でみると、各微地形の分布領域が地域的に偏ることを反映して、南部の南郷谷のほうが北部の阿蘇谷より大きい。
3.2 工学的基盤の深さと地盤モデルの構築
地盤モデルによる、Vs200(m/s)および工学的基盤相当層(Vs=350(m/s))の深さ分布について、阿蘇谷地域においては、ボーリングデータの数および密度は低く、工学的基盤相当の地盤上面の深度に届いているものは少ない。Vs200および工学的基盤上面の深度の傾向に対応して,阿蘇谷の東部から中央部からでは北へ深くなる傾向となっており、西部では黒川沿いに深くなる傾向を示す。低地が北へ湾入している内牧付近では,工学的基盤相当の地盤の上面深度は100m以上となっている。阿蘇南部の南郷谷では、工学的基盤相当の地盤上面の深度は阿蘇谷よりかなり浅い。標高でみると、地形なりに両側の山麓から白川へ向かって、また、現在の谷(白川)の流下方向に沿って東から西へ深くなる傾向を示すが、深度の変化はあまり大きくない。
4.まとめ
本検討では、初期地質モデルを作成し、微動アレイ探査、常時微動測定結果を用いて、AVS30(m/s)の分布と浅部・深部統合地盤モデルを構築した。今回阿蘇地域で作成された地盤モデルによる、AVS30および工学的基盤相当層の分布は、これまでの関東・東海地域で実施してきた研究結果同様、既往のボーリングデータと比較すると調和的な結果となっている。また、本検討で計算されたS波速度構造モデルから計算される理論H/V(周期特性)および増幅特性についても、地震記録と調和的であること等が確認できた。この結果は、微動観測による位相速度と周期特性(H/Vスペクトル比)等の評価そのものが、モデルの精度を高めるのに非常に効果的であり、工学的基盤(たとえばVs350等のS波速度構造上面深度)の設定が難しい場合に、極小アレイ微動観測等を利用し工学的基盤深さ等を地質・土質情報に基づいて修正する方法としての利用価値が非常に高いものと考える。今後、地盤増幅率として利用されている、微地形区分を使った手法3)や地震記録と比較し、様々な増幅率指標の検討を行う予定である。
謝 辞
本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました。また、JSPS 科研費基盤研究(B)17H03306(代表:東京電機大学 安田進教授)により実施した微動探査結果を活用しました。記して感謝いたします。
参考文献 1)大保直人、先名重樹、安田進、石川敬祐、野村勇斗:熊本地震により阿蘇市で発生した帯状陥没地域での微動アレイ観測によるS波地盤構造評価、第15回日本地震工学シンポジウム論文集、OS7-01-05、2018.2) S. Senna, A. Wakai, H. Suzuki, A. Yatagai, H. Matsuyama, and H. Fujiwara, “Modeling of the Subsurface Structure from the Seismic Bedrock to the Ground Surface for a Broadband Strong Motion Evaluation in Kumamoto Plain,” J. Disaster Res., Vol.13, No.5, pp. 917-927, 2018. 3) 松岡昌志、若松加寿江、藤本一雄、翠川三郎:日本全国地形・地盤分類メッシュマップを利用した地盤の平均S波速度分布の推定、土木学会論文集、No.794/I-72、pp.239-251、2005.
強震動予測を高度化するためには、広帯域の地震動特性を評価できるような地盤モデルの構築が重要な課題の1つである。そのためには、これまで別々にモデル化を実施してきた浅部地盤モデルと深部地盤モデルを統合し、観測記録を再現できるようなモデルの作成を進めていくことが不可欠である。本研究では、平成28年熊本地震において、液状化等の地盤変状が多く確認された阿蘇地域全域において、表層地盤の構造および工学的基盤の深さ分布を確認するため、K-NET、KiK-net、気象庁、および自治体等の地震観測点における地震記録と、多数の常時微動によるアレイ探査および単点(H/Vスペクトル比)の記録を面的に収集した。また、阿蘇地域の地盤モデルを構築するための基礎検討として解析結果よりS波速度構造モデルを検討した。本報告では、微動アレイ観測結果、および、浅部・深部統合地盤モデル構築の検討結果について報告する。
2. 地盤構造モデル検討のための微動観測データについて
本研究では、阿蘇地域(阿蘇谷・南郷谷)の低地・台地部全域において、常時微動観測を実施した。ここでは観測方法として、2種類の微動アレイ観測を実施している。1つは極小アレイ観測で、主に公的建物の敷地や公道等において約500地点で実施した。なお、本結果の検討においては、大保・他(2018)1)の極小微動アレイ観測結果も活用している。大きめのアレイ観測は、K-NET、KiK-netおよび自治体の震度観測地点等の8地点でそれぞれ実施した。観測には一体型常時微動観測装置JU-410(白山工業社製)を用いた。極小アレイ観測は、60cmの4点による三角形のアレイと5~15mの不規則アレイを約500m間隔にて行い、15分の観測を行った。微動アレイ観測については、約5km間隔で設定し、半径R=400m、200m、100mの大きさの三角計の大アレイと、それよりも小さな半径については、一辺75m、50m、25mのL字アレイ(一部R=10~60mの三角アレイ)を展開した。大アレイについては、2時間程度、L字アレイ等は30分程度の観測を行った。
3.微動探査結果
3.1 AVS30の分布と特徴
微動アレイ解析結果のAVS30より、微地形区分ごとに明瞭に異なることが分かった。これまでに実施してきた、熊本平野等の他の地域(例えばSenna et al.,(2018)2))に比べると扇状地の値が小さい。自然堤防・後背湿地ではばらつきが小さく、値も小さい傾向にある。他の地域では、基盤からなる丘陵・山地の近傍では、斜面の延長部にあたる侵食面が地下浅部に埋没しているために表層の堆積物が薄くなるためにAVSが大きくなる傾向があると考えられる。このため、同じ微地形区分の中でも値のばらつきが生じている。一方、カルデラの陥没に伴い形成されたカルデラ内縁斜面は急傾斜で地下に埋没しており、埋積している沖積層の層厚は低地縁辺部でもかなり厚い(むしろ縁辺部ほど厚い)と推定される。また、火山山麓地の値は砂礫質台地と同程度かやや小さく、谷底低地の値が最も大きい。これは他の地域とは異なる傾向であり、堆積物が薄くVsの大きい基盤が浅部から出現するためと推定される。なお、カルデラ全体でみると、各微地形の分布領域が地域的に偏ることを反映して、南部の南郷谷のほうが北部の阿蘇谷より大きい。
3.2 工学的基盤の深さと地盤モデルの構築
地盤モデルによる、Vs200(m/s)および工学的基盤相当層(Vs=350(m/s))の深さ分布について、阿蘇谷地域においては、ボーリングデータの数および密度は低く、工学的基盤相当の地盤上面の深度に届いているものは少ない。Vs200および工学的基盤上面の深度の傾向に対応して,阿蘇谷の東部から中央部からでは北へ深くなる傾向となっており、西部では黒川沿いに深くなる傾向を示す。低地が北へ湾入している内牧付近では,工学的基盤相当の地盤の上面深度は100m以上となっている。阿蘇南部の南郷谷では、工学的基盤相当の地盤上面の深度は阿蘇谷よりかなり浅い。標高でみると、地形なりに両側の山麓から白川へ向かって、また、現在の谷(白川)の流下方向に沿って東から西へ深くなる傾向を示すが、深度の変化はあまり大きくない。
4.まとめ
本検討では、初期地質モデルを作成し、微動アレイ探査、常時微動測定結果を用いて、AVS30(m/s)の分布と浅部・深部統合地盤モデルを構築した。今回阿蘇地域で作成された地盤モデルによる、AVS30および工学的基盤相当層の分布は、これまでの関東・東海地域で実施してきた研究結果同様、既往のボーリングデータと比較すると調和的な結果となっている。また、本検討で計算されたS波速度構造モデルから計算される理論H/V(周期特性)および増幅特性についても、地震記録と調和的であること等が確認できた。この結果は、微動観測による位相速度と周期特性(H/Vスペクトル比)等の評価そのものが、モデルの精度を高めるのに非常に効果的であり、工学的基盤(たとえばVs350等のS波速度構造上面深度)の設定が難しい場合に、極小アレイ微動観測等を利用し工学的基盤深さ等を地質・土質情報に基づいて修正する方法としての利用価値が非常に高いものと考える。今後、地盤増幅率として利用されている、微地形区分を使った手法3)や地震記録と比較し、様々な増幅率指標の検討を行う予定である。
謝 辞
本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました。また、JSPS 科研費基盤研究(B)17H03306(代表:東京電機大学 安田進教授)により実施した微動探査結果を活用しました。記して感謝いたします。
参考文献 1)大保直人、先名重樹、安田進、石川敬祐、野村勇斗:熊本地震により阿蘇市で発生した帯状陥没地域での微動アレイ観測によるS波地盤構造評価、第15回日本地震工学シンポジウム論文集、OS7-01-05、2018.2) S. Senna, A. Wakai, H. Suzuki, A. Yatagai, H. Matsuyama, and H. Fujiwara, “Modeling of the Subsurface Structure from the Seismic Bedrock to the Ground Surface for a Broadband Strong Motion Evaluation in Kumamoto Plain,” J. Disaster Res., Vol.13, No.5, pp. 917-927, 2018. 3) 松岡昌志、若松加寿江、藤本一雄、翠川三郎:日本全国地形・地盤分類メッシュマップを利用した地盤の平均S波速度分布の推定、土木学会論文集、No.794/I-72、pp.239-251、2005.