[SSS11-04] P波方位異方性構造に基づく関東地方のフィリピン海スラブの特徴
キーワード:地震波異方性、フィリピン海スラブ、関東
はじめに:
関東地方はフィリピン海プレート(PHS),太平洋プレート(PAC),オホーツクプレートの収束帯に位置している.これら3枚のプレートによって形成された構造の詳細は古くから高い関心を集めており,その解明に向けた研究が精力的に進められてきている [e.g., Ishida, 1991; Kamiya & Kobayashi, 2000; Sato et al., 2005; Hasegawa et al., 2007; Nakajima et al.,2009: Toda et al., 2008; Ishise et al., 2015].しかし,未だその全貌は完全には明らかにはされていない.
そこで我々は,近年,整備されたMeSO-netのデータを活用して関東地方の詳細な3次元P波方位異方性速度構造解析(異方性トモグラフィー)を実施した.そして,昨年の本大会では,東京湾を中心とした領域下の高速度異常領域において,異方性の方向が連続的に深さ変化する異常な領域が存在することを報告した(石瀬・他,2019JpGU).そして,その原因となり得る幾つかの可能性を示したが,結論には至らなかった.そこで本研究では,フィリピン海プレートのイメージングを目的としたseismic profile (Sato et al., 2005)を活用した地震波異方性速度構造の解釈を行った.
異方性構造解析の概要:
地震波異方性トモグラフィー解析の概要は以下である.詳細については石瀬・他(2019)を参照されたい.
解析に使用した観測点数,地震数,およびP波読み取り値の数は,それぞれ500観測点,1859地震,442960個である.これらを用いてIshise & Oda [2008] の方法により,3次元のP波方位異方性速度構造(等方性構造,地震波が速く伝わる方向,異方性の強さ)を求めた.解析に用いた格子構造は,水平方向には10㎞(中心部),深さ方向には5~20㎞とした.ただし,水平方向においては,緯度方向,経度方向にそれぞれ半格子間隔ずつずらした格子構造を用いた4つの解析を行ってこれらを重ね合わせているため,見かけ上の格子間隔は5㎞間隔となっている.
構造解釈の手順と結果:
本研究では,Sato et al. (2005)のP3測線に沿ったseismic profileを活用した.P3測線は,東京湾を縦断する測線であり,その鉛直断面は昨年度本大会で報告した東京湾下の異常構造をサンプルしている.
まず,seismic profileによるPHSスラブ上面深さと異方性構造を比較した.これにより,PHSの上面よりも浅部の異方性の方向が,関東地方の基盤岩として存在する付加体の走向とほぼ平行であることが示された.この異方性の方向の特徴は,付加体の層状構造に起因するものであると考えられる.そこで,浅部に存在する付加体の走向と平行な異方性は陸側プレートを表わすと考え,これと同様の特徴を持つ異方性領域の最下部を追跡することで,上盤プレートの底(基盤の底)を決定した.
次に,上盤プレートの底(基盤の底)より深部の異方性の特徴を吟味した.その結果,異方性の方向によって区分される3つの領域が存在することが分かった.それぞれの異方性の方向は,(1)NW-SE,(2)NNE-SSW,(3)WNW-ESE方向である.(1)NW-SE方向に卓越する異方性はPHSスラブの上面から10㎞の層内の異方性において顕著な特徴であり,低速度異常とその深部にある高速度異常の両方を含んでいるように見える.また,(2)NNE-SSW方向に卓越する異方性は顕著な高速度異常を示しており,PACスラブの上面から大陸プレート下面の間に見られる.この異方性領域は,石瀬・他(2019)で報告した異常領域の位置や,Toda et al. (2008)のフラグメント化した太平洋スラブの位置にも対応している.(3)WNW-ESEの異方性については,上盤プレートの底と接して存在する薄い低速度異常領域内に見られる.この領域内に見られる異方性の方向は非常に均質である.
議論と結論:
(1)NW-SE方向に卓越する異方性は,PHSスラブ上面直下付近に見られることから,PHSスラブの海洋性地殻内を中心として存在する異方性であると考えられる.この成因としては,プレートが沈み込む際の沈み込み口でのbendingによって形成されたtrench parallelのクラックの配列が考えられる.(2)NNE-SSW方向に卓越する異方性は,(1)のPHSプレートの海洋性地殻の下層に存在する高速度異常領域に分布する.このことから,PHSスラブのマントル内の異方性と考えられる.異方性の特徴としては,この領域で発生する小中規模地震の断層面の走向とよく一致している.このことから,東京湾下のPHSスラブマントル内には,NNE-SSW方向の走向で特徴づけられるような大規模構造が形成されている可能性が考えられる.(3)WNW-ESEの異方性については,その方向がPACスラブのオホーツクプレートに対する相対運動方向と平行であることから,オホーツクプレートのマントルウェッジであると解釈される.なお,低速度異常という点からは海洋性地殻に対応する一連の低速度異常と見えなくもないが,ある位置において,等方性速度の摂動量と異方性の方向の急変がみられる.このことから,本研究では海洋性地殻説を積極的には採用しない.
地震波異方性を導入したことで、等方性速度だけではわからなかった構造が分離され、プレート内部の様子が明らかになり、沈み込むスラブの運動や物性の解明にとって重要な情報になると期待される。
謝辞:
本研究は首都圏と中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクトの一環として行われています.
関東地方はフィリピン海プレート(PHS),太平洋プレート(PAC),オホーツクプレートの収束帯に位置している.これら3枚のプレートによって形成された構造の詳細は古くから高い関心を集めており,その解明に向けた研究が精力的に進められてきている [e.g., Ishida, 1991; Kamiya & Kobayashi, 2000; Sato et al., 2005; Hasegawa et al., 2007; Nakajima et al.,2009: Toda et al., 2008; Ishise et al., 2015].しかし,未だその全貌は完全には明らかにはされていない.
そこで我々は,近年,整備されたMeSO-netのデータを活用して関東地方の詳細な3次元P波方位異方性速度構造解析(異方性トモグラフィー)を実施した.そして,昨年の本大会では,東京湾を中心とした領域下の高速度異常領域において,異方性の方向が連続的に深さ変化する異常な領域が存在することを報告した(石瀬・他,2019JpGU).そして,その原因となり得る幾つかの可能性を示したが,結論には至らなかった.そこで本研究では,フィリピン海プレートのイメージングを目的としたseismic profile (Sato et al., 2005)を活用した地震波異方性速度構造の解釈を行った.
異方性構造解析の概要:
地震波異方性トモグラフィー解析の概要は以下である.詳細については石瀬・他(2019)を参照されたい.
解析に使用した観測点数,地震数,およびP波読み取り値の数は,それぞれ500観測点,1859地震,442960個である.これらを用いてIshise & Oda [2008] の方法により,3次元のP波方位異方性速度構造(等方性構造,地震波が速く伝わる方向,異方性の強さ)を求めた.解析に用いた格子構造は,水平方向には10㎞(中心部),深さ方向には5~20㎞とした.ただし,水平方向においては,緯度方向,経度方向にそれぞれ半格子間隔ずつずらした格子構造を用いた4つの解析を行ってこれらを重ね合わせているため,見かけ上の格子間隔は5㎞間隔となっている.
構造解釈の手順と結果:
本研究では,Sato et al. (2005)のP3測線に沿ったseismic profileを活用した.P3測線は,東京湾を縦断する測線であり,その鉛直断面は昨年度本大会で報告した東京湾下の異常構造をサンプルしている.
まず,seismic profileによるPHSスラブ上面深さと異方性構造を比較した.これにより,PHSの上面よりも浅部の異方性の方向が,関東地方の基盤岩として存在する付加体の走向とほぼ平行であることが示された.この異方性の方向の特徴は,付加体の層状構造に起因するものであると考えられる.そこで,浅部に存在する付加体の走向と平行な異方性は陸側プレートを表わすと考え,これと同様の特徴を持つ異方性領域の最下部を追跡することで,上盤プレートの底(基盤の底)を決定した.
次に,上盤プレートの底(基盤の底)より深部の異方性の特徴を吟味した.その結果,異方性の方向によって区分される3つの領域が存在することが分かった.それぞれの異方性の方向は,(1)NW-SE,(2)NNE-SSW,(3)WNW-ESE方向である.(1)NW-SE方向に卓越する異方性はPHSスラブの上面から10㎞の層内の異方性において顕著な特徴であり,低速度異常とその深部にある高速度異常の両方を含んでいるように見える.また,(2)NNE-SSW方向に卓越する異方性は顕著な高速度異常を示しており,PACスラブの上面から大陸プレート下面の間に見られる.この異方性領域は,石瀬・他(2019)で報告した異常領域の位置や,Toda et al. (2008)のフラグメント化した太平洋スラブの位置にも対応している.(3)WNW-ESEの異方性については,上盤プレートの底と接して存在する薄い低速度異常領域内に見られる.この領域内に見られる異方性の方向は非常に均質である.
議論と結論:
(1)NW-SE方向に卓越する異方性は,PHSスラブ上面直下付近に見られることから,PHSスラブの海洋性地殻内を中心として存在する異方性であると考えられる.この成因としては,プレートが沈み込む際の沈み込み口でのbendingによって形成されたtrench parallelのクラックの配列が考えられる.(2)NNE-SSW方向に卓越する異方性は,(1)のPHSプレートの海洋性地殻の下層に存在する高速度異常領域に分布する.このことから,PHSスラブのマントル内の異方性と考えられる.異方性の特徴としては,この領域で発生する小中規模地震の断層面の走向とよく一致している.このことから,東京湾下のPHSスラブマントル内には,NNE-SSW方向の走向で特徴づけられるような大規模構造が形成されている可能性が考えられる.(3)WNW-ESEの異方性については,その方向がPACスラブのオホーツクプレートに対する相対運動方向と平行であることから,オホーツクプレートのマントルウェッジであると解釈される.なお,低速度異常という点からは海洋性地殻に対応する一連の低速度異常と見えなくもないが,ある位置において,等方性速度の摂動量と異方性の方向の急変がみられる.このことから,本研究では海洋性地殻説を積極的には採用しない.
地震波異方性を導入したことで、等方性速度だけではわからなかった構造が分離され、プレート内部の様子が明らかになり、沈み込むスラブの運動や物性の解明にとって重要な情報になると期待される。
謝辞:
本研究は首都圏と中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクトの一環として行われています.