JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 地震波伝播:理論と応用

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)

[SSS12-P12] 地殻構造の受動的地震波イメージング: 音響波および弾性波リバースタイム法の数値実験

*白石 和也1渡辺 俊樹2 (1.海洋研究開発機構、2.名古屋大学)

キーワード:受動的地震波イメージング、地殻構造、自然地震、リバースタイム法、数値実験

はじめに
受動的な地震観測記録から地殻内不均質構造を可視化することを目的に、観測記録に含まれる反射波をリバースタイム法で解析する地震波イメージングを提案する。反射法地震探査で複雑構造のイメージングに効果を上げているリバースタイムマイグレーション(Reverse time migration, RTM)を、自然地震などの受動的観測記録に適応するよう、震源情報を必要としない定式化を行った。そして、一般的にはP波のみを利用する音響波RTMに加えて、自然地震で卓越するS波も含む弾性波RTMを開発し(渡辺・白石, 2019, 物理探査学会)、プレート沈み込みを含む広域地殻構造モデルを用いた数値シミュレーションを行った。提案手法は将来的に、陸上と海域の両方で整備が進む地震観測網や光ファイバーケーブルを用いた高密度観測など、受動的観測による膨大な情報を活用して、地殻構造のイメージングや状態モニタリングなどへの応用が期待される。

手法
地中の震源から地表のある地震計に達した地震波が下方へ反射して、地中の境界面で上方へ反射して別の地震計に至る波の伝播を想定する。このような受動的な観測記録を用いる場合、一方の地震観測点から時間の順方向へ伝播する波動場と、他方の地震観測点から時間の逆方向へ伝播する波動場をそれぞれモデリングし、それらの各時間ステップの相関結果を時間積分する。多数の震源に対する観測記録を利用し重合することで、震源情報が無いまたは不正確な場合でも、観測波形と受振点の情報から地下の不均質構造を直接イメージングできる。音響波モデリングに基づく方法(音響波RTM)では、主としてP波を解析対象とする。一方、弾性波モデリングを導入(弾性波RTM)すると、P波とS波による情報を同時に取り扱うことができる。さらにモデリングによる波動場の発散と回転の計算によりポテンシャル表現をすることで、P波とS波を分けて構造イメージを得られる。

シミュレーションスタディ
 既存研究で得られた西南日本のプレート・地殻構造モデル(Nakanishi et al., 2018)を用いて、海陸に跨る広域地殻構造を対象とする二次元数値シミュレーションを実施した。南海トラフ熊野沖から丹後半島付近までの水平距離400kmの測線を設定し、測線からの直交距離が35kmの範囲に含まれる実際の地震の分布(気象庁一元化震源リスト)を基に100点を無作為に抽出して測線に沿う断面に投影した。受振点は、理想的な条件として1km毎に400点の観測を仮定する“高密度観測”と、実際の観測密度を想定した上記と同じ範囲に含まれる48点の陸上(Hi-net/F-net)および海底(DONET)の地震観測点を投影した “低密度観測”の比較を行った。有限差分法による地震波モデリングを行い、卓越周波数1Hzの地震波形を合成した。
 合成記録の解析では、観測波形の鉛直成分のみを用いた音響波RTMと、鉛直成分と水平成分の両方を用いた弾性波RTMを適用した。高密度観測の場合には、音響波RTMと弾性波RTMのいずれの場合にも、地殻スケールの構造イメージングの可能性を確認した。ただし、音響波RTMの場合には、記録に含まれるS波の影響によるイメージ劣化が見られた。ポテンシャル表現を利用することで、P波とS波のそれぞれについて地下構造イメージを得られることを確認した。弾性波RTMの場合、P波とS波の情報を扱うことでイメージ改善が見られたほか、P波に比べて空間的波長の短いS波利用の利点も確認した。しかし、実際の観測条件に近い低密度観測の場合には、観測記録から直接的にイメージングを行う現在の方法では、構造解釈に足る連続的な地下構造イメージを得るのは難しい。利用する地震イベントの数を増やし波動伝播経路の多様化を図るほか、圧縮センシングの応用により疎らな観測からイメージを改善させる取り組みなども必要であろう。

謝辞
本研究はJSPS科学研究費基盤研究C(JP19K04028)の助成を受けたものです。実際の震源および観測点の情報として、気象庁一次元化震源データ、防災科学技術研究所のHi-net高感度地震観測網、F-net広帯域地震観測網、DONET地震・津波観測監視システムの観測点情報を利用しました。