JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 地震波伝播:理論と応用

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)

[SSS12-P13] 全無限均質媒質中の有限矩形断層から生じる変位の近地項・中間項・遠地項と準静的解

*垂水 洸太郎1竹中 博士1 (1.岡山大学)

キーワード:近地項、準静的変位、破壊指向性、解析解、矩形断層

有限矩形断層によって励起される変位場の解析解は,Sato (1975, JPE)によって求められているが,近地項,中間項,遠地項に分離されていなかった(以下では特に中間項と表記しない限り近地項と中間項の和を近地項と呼び,三つの項に分離した解析解を分離解析解と呼ぶ).そのため,有限矩形断層によって励起される分離解析解は未だ導出されておらず,近地項に関する理論的検討がなされていない.2016年熊本地震では,震源断層近傍において甚大な被害が発生している.その原因として,近地項や準静的変位の効果が指摘されている.そこで本研究では,弾性の全無限均質媒質中の有限矩形断層によって励起される変位場の分離解析解を導出し,種々の断層タイプの震源断層近傍における近地項の寄与を検討した.また,準静的変位の解析解を,断層運動が開始した瞬間に生じる場合と,S波の走時で到達するとした場合の二通りで導出し,近地項と波形を比較した.

有限矩形断層モデルでは,Sato (1975)と同じく,破壊速度を走向方向,傾斜方向に一定とする直線状の破壊フロントと,すべり時間関数としてライズタイム一定としたランプ関数を考える.点震源によって励起される変位場の解 (例えばAki & Richards, 2002) の近地項,中間P波,中間S波,遠地P波,遠地S波,静的変位をこの断層モデルの走向方向に解析的に積分し,解析解を導出した.

Fig.1は断層モデルの一例である.媒質のP波とS波の速度は,6.0 km/s,3.5 km/sとした.仮定した断層モデルは,長さ60 km,幅15 ㎞,すべり2.0 m,ライズタイム2.5 s,すべり角0°(横ずれ断層),破壊速度は2.5 km/sで一様である.

破壊フロントは鉛直で,破壊が真横に進行する方向の観測点 (Fig.1) における,水平方向の変位波形及び,それらの近地項と遠地項それぞれの変位をFig.2に示す.そこでは,準静的変位も重ねて描いている.断層直交 (FN) 成分では主に遠地項が寄与している.これは破壊が進行する方向で大振幅のパルスが生じるForward directivityを示している.この傾向は近地項では小さい.ここでは示していないが,破壊フロントが斜め上方に進行する場合では,遠地項の寄与が小さくなり,近地項と同程度に寄与する.また両方の場合において,準静的変位は近地項と異なる波形を示す.断層平行 (FP) 成分では,両方の場合において主に近地項が寄与している.準静的変位はFP成分では比較して近地項と近い波形を示し,全変位とほぼ一致する.これは遠地項の寄与が小さいことに起因する.