[SSS12-P14] 関東堆積盆地の遠地地震のS波入射に対する応答特性:観測とシミュレーションの比較
キーワード:関東堆積盆地、地震動シミュレーション、遠地地震、長周期地震動
はじめに
大規模な堆積盆地では,近地で発生した中規模以上の浅発地震によって周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が発生することが知られており,大型建造物の被害予測などの地震防災においては堆積盆地構造の把握が重要である.従来,関東堆積盆地の周囲で発生した浅発地震を解析対象とし,堆積盆地構造や長周期地震動の発生メカニズムに関する研究が行われてきたが,対象とする地震の震源破壊過程が多様であり,その不確定性が解析上の支障となっていた.そこで本研究では,遠地で発生した大地震を解析対象とし,観測点に対しほぼ鉛直下方から入射するS波に対する関東堆積盆地の応答について,稠密な観測記録とシミュレーションを併用して解析を行った.
観測波形と解析手法
関東堆積盆地から震央距離30°〜100°で発生した遠地地震を解析対象とし,F-net およびMeSO-net で記録された地震波形を解析した.解析対象帯域は5〜20秒とした.遠地地震のS波入射に対する関東堆積盆地の応答の指標値として,速度振幅を2乗して時間積分した値を用いた.時間積分の範囲は,① S波の到着10秒前から60秒間(直逹波),② S波の到着50秒後から50秒間(後続波)とし,それぞれ直逹波と後続波の地震波エネルギーとした.関東堆積盆地外のF-net観測点を基準観測点として設定し,基準観測点の平均値と盆地内にある観測点の地震波エネルギーの比を求め,盆地内における空間変化について調べた.
一例として2018年1月23日(JST)のアラスカ沖地震(Mw 7.9)の場合,水平成分の地震波エネルギー比は5〜20程度になり,堆積盆地による増幅作用が確認された.また,後続波の地震波エネルギーを直達波の地震波エネルギーで割った値(以下,励起強度)を評価した.データのばらつきは大きいが,水平成分の励起強度と地震基盤深度に明瞭な正の相関関係が見られ,堆積層が厚いほど後続波が強く励起されていることがわかった.
観測とシミュレーションの比較
堆積層の厚さと後続波の励起強度の関係について考察するため,関東堆積盆地への遠地地震のS波入射を模擬した地震動シミュレーションを実施した.関東堆積盆地を含む375✕375✕250 km3の領域を0.25 kmの空間格子で離散化した.Koketsu et al. (2012) による3次元地下構造モデルを採用し,OpenSWPC [Maeda et al. (2017)] を用いて,鉛直下方から平面SH波を入射させた.堆積盆地構造(堆積層)のあるモデル(モデルA)とないモデル(モデルB)2種類を用いて,平面SH波を鉛直下方から入射させて地震波エネルギーを評価したところ,モデルAでのみ地震波エネルギー比が5〜20程度となることが確認された(中川・他, 2019 SSJ).水平成分の励起強度について,地震基盤深度が1 km深くなるごとに0.1〜0.2程度ずつ大きくなる特徴は観測と一致したが,その絶対値については完全に再現できていない.また,上下成分については観測を十分に再現できなかった.
関東堆積盆地への遠地地震のS波入射をより正確に模擬するために,アラスカ沖地震を想定し,入射角を考慮して平面SH波を入射させる地震動シミュレーションを実施した.入射角は1次元地震波速度構造モデルak135から算出した.しかしながら,このシミュレーションによっても,水平成分における観測の特徴の再現には成功したものの,上下成分の観測との不一致は改善されなかった.入射方位を変え,他の地震を対象としたシミュレーションでも同様であった.
このことから,今後の研究では,解析対象の遠地地震の数を増やすとともに,地震動シミュレーションにおいて,入射S波のSV成分、あるいは太平洋スラブやフィリピン海スラブの反射・変換波の影響を含め考慮する.
謝辞
防災科学技術研究所のF-netおよびMeSO-netの地震波形記録を使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターの計算機システムを利用しました.
大規模な堆積盆地では,近地で発生した中規模以上の浅発地震によって周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が発生することが知られており,大型建造物の被害予測などの地震防災においては堆積盆地構造の把握が重要である.従来,関東堆積盆地の周囲で発生した浅発地震を解析対象とし,堆積盆地構造や長周期地震動の発生メカニズムに関する研究が行われてきたが,対象とする地震の震源破壊過程が多様であり,その不確定性が解析上の支障となっていた.そこで本研究では,遠地で発生した大地震を解析対象とし,観測点に対しほぼ鉛直下方から入射するS波に対する関東堆積盆地の応答について,稠密な観測記録とシミュレーションを併用して解析を行った.
観測波形と解析手法
関東堆積盆地から震央距離30°〜100°で発生した遠地地震を解析対象とし,F-net およびMeSO-net で記録された地震波形を解析した.解析対象帯域は5〜20秒とした.遠地地震のS波入射に対する関東堆積盆地の応答の指標値として,速度振幅を2乗して時間積分した値を用いた.時間積分の範囲は,① S波の到着10秒前から60秒間(直逹波),② S波の到着50秒後から50秒間(後続波)とし,それぞれ直逹波と後続波の地震波エネルギーとした.関東堆積盆地外のF-net観測点を基準観測点として設定し,基準観測点の平均値と盆地内にある観測点の地震波エネルギーの比を求め,盆地内における空間変化について調べた.
一例として2018年1月23日(JST)のアラスカ沖地震(Mw 7.9)の場合,水平成分の地震波エネルギー比は5〜20程度になり,堆積盆地による増幅作用が確認された.また,後続波の地震波エネルギーを直達波の地震波エネルギーで割った値(以下,励起強度)を評価した.データのばらつきは大きいが,水平成分の励起強度と地震基盤深度に明瞭な正の相関関係が見られ,堆積層が厚いほど後続波が強く励起されていることがわかった.
観測とシミュレーションの比較
堆積層の厚さと後続波の励起強度の関係について考察するため,関東堆積盆地への遠地地震のS波入射を模擬した地震動シミュレーションを実施した.関東堆積盆地を含む375✕375✕250 km3の領域を0.25 kmの空間格子で離散化した.Koketsu et al. (2012) による3次元地下構造モデルを採用し,OpenSWPC [Maeda et al. (2017)] を用いて,鉛直下方から平面SH波を入射させた.堆積盆地構造(堆積層)のあるモデル(モデルA)とないモデル(モデルB)2種類を用いて,平面SH波を鉛直下方から入射させて地震波エネルギーを評価したところ,モデルAでのみ地震波エネルギー比が5〜20程度となることが確認された(中川・他, 2019 SSJ).水平成分の励起強度について,地震基盤深度が1 km深くなるごとに0.1〜0.2程度ずつ大きくなる特徴は観測と一致したが,その絶対値については完全に再現できていない.また,上下成分については観測を十分に再現できなかった.
関東堆積盆地への遠地地震のS波入射をより正確に模擬するために,アラスカ沖地震を想定し,入射角を考慮して平面SH波を入射させる地震動シミュレーションを実施した.入射角は1次元地震波速度構造モデルak135から算出した.しかしながら,このシミュレーションによっても,水平成分における観測の特徴の再現には成功したものの,上下成分の観測との不一致は改善されなかった.入射方位を変え,他の地震を対象としたシミュレーションでも同様であった.
このことから,今後の研究では,解析対象の遠地地震の数を増やすとともに,地震動シミュレーションにおいて,入射S波のSV成分、あるいは太平洋スラブやフィリピン海スラブの反射・変換波の影響を含め考慮する.
謝辞
防災科学技術研究所のF-netおよびMeSO-netの地震波形記録を使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターの計算機システムを利用しました.