[SSS12-P15] 地殻構造の短波長不均質性とP波の走時揺らぎ及び振幅揺らぎの関係 -3次元地震波伝播シミュレーションによる数値実験-
キーワード:地殻、短波長不均質性、P波、走時揺らぎ、振幅揺らぎ、地震波伝播シミュレーション
はじめに
近地地震の高周波数(約1 Hz以上)の地震波には,地殻構造の短波長不均質性(地震波速度の数%程度の揺らぎ)の影響により,走時揺らぎと振幅揺らぎ〔例えば,Yoshimoto et al. (2015)〕が発生すると考えられている.このような現象については,周波数1 Hz程度以下の遠地地震のP波を対象とした研究〔例えば,Butler (1983)〕は多くあるものの,近地地震の高周波数のP波を対象とした研究は少なく,上部地殻における地震波伝播特性の詳細は不明である.そこで本研究では,地殻構造を模した不均質構造モデルを用いた3次元地震波伝播シミュレーションによる合成波形を対象として,地殻構造の短波長不均質性とP波の走時揺らぎ及び振幅揺らぎの関係について調べた.
計算・解析手法
204.8×204.8×204.8 km3の計算領域を0.05 km間隔で離散化し,2.5 msのタイムステップの空間4次・時間2次の3次元差分法〔Takemura et al. (2017)〕により地震波伝播を評価した.均質な地震波速度構造(P波速度6.0 km/s,S波速度3.5 km/s)に空間一様なランダム不均質性を重畳した構造モデルを用い,その中心部に横ずれ断層を模擬したダブルカップル型点震源を配置した.震源時間関数には非対称cos型関数〔Ji et al. (2003); ts=0.1 s, te=0.4 s〕を用いた.観測点は震源と同じ深さのx-y平面に格子状に2.5 km間隔で配置した.地殻構造の短波長不均質性はランダム不均質性で表現し,指数関数型モデルとBirch則を仮定した.相関距離は1,3,及び5 km,揺らぎの大きさは0.01,0.02,0.03,0.04,及び0.05に設定した.ランダム不均質モデルのシード数は5とした.
解析では,震源距離60 km以内の観測点の計算波形を対象として,P波の初動走時を自動処理〔前田 (1985)〕により読み取った.さらに,1-2,2-4,及び4-8 Hzのバンドパスフィルタを適用した後に,P波の初動から1秒間の時間窓を設定して3成分合成最大振幅を測定した.仮定した震源モデルは4象限型の対称性を持つので,測定値を90゚毎に重合して,地殻構造の短波長不均質性と走時揺らぎ及び振幅揺らぎの関係を評価した.
結果・議論
走時揺らぎには,ランダム不均質の相関距離及び揺らぎの大きさの増大とともに大きくなる特徴が確認された.この特徴は,本研究の計算パラメタの範囲では,相関距離の変化についてより明瞭に見られた.具体的に,走時揺らぎの大きさは,震源距離50 kmの場合,西南日本のランダム不均質モデル〔Kobayashi et al. (2015); 相関距離1 km,揺らぎの大きさ0.03〕では0.1 s程度であった.また,一定の震源距離における走時には,その平均値のまわりにほぼ対称的に分布する特徴が見られた.ここで得られた知見は,地殻内地震の震源決定では,走時揺らぎの大きさによって震源決定精度と走時残差の下限が規定されることを示唆する.
走時揺らぎと振幅揺らぎの関係を調べたところ,両者の間に正の相関が確認された.すなわち,P波の到着が遅れるほど,振幅が大きくなる傾向が見られた.この傾向は,ランダム不均質の相関距離と揺らぎの大きさが大きいほど明瞭であった.また,低周波数ほど顕著であった.以上の解析結果は,P波の波線経路とその周囲の速度揺らぎによって,走時の変化が発生し,フォーカシング・デフォーカシング作用によって振幅も同時に影響を受ける可能性を強く示唆する.
謝辞
地震波伝播シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました.本研究はJSPS科研費18K03786の助成を受けています.
近地地震の高周波数(約1 Hz以上)の地震波には,地殻構造の短波長不均質性(地震波速度の数%程度の揺らぎ)の影響により,走時揺らぎと振幅揺らぎ〔例えば,Yoshimoto et al. (2015)〕が発生すると考えられている.このような現象については,周波数1 Hz程度以下の遠地地震のP波を対象とした研究〔例えば,Butler (1983)〕は多くあるものの,近地地震の高周波数のP波を対象とした研究は少なく,上部地殻における地震波伝播特性の詳細は不明である.そこで本研究では,地殻構造を模した不均質構造モデルを用いた3次元地震波伝播シミュレーションによる合成波形を対象として,地殻構造の短波長不均質性とP波の走時揺らぎ及び振幅揺らぎの関係について調べた.
計算・解析手法
204.8×204.8×204.8 km3の計算領域を0.05 km間隔で離散化し,2.5 msのタイムステップの空間4次・時間2次の3次元差分法〔Takemura et al. (2017)〕により地震波伝播を評価した.均質な地震波速度構造(P波速度6.0 km/s,S波速度3.5 km/s)に空間一様なランダム不均質性を重畳した構造モデルを用い,その中心部に横ずれ断層を模擬したダブルカップル型点震源を配置した.震源時間関数には非対称cos型関数〔Ji et al. (2003); ts=0.1 s, te=0.4 s〕を用いた.観測点は震源と同じ深さのx-y平面に格子状に2.5 km間隔で配置した.地殻構造の短波長不均質性はランダム不均質性で表現し,指数関数型モデルとBirch則を仮定した.相関距離は1,3,及び5 km,揺らぎの大きさは0.01,0.02,0.03,0.04,及び0.05に設定した.ランダム不均質モデルのシード数は5とした.
解析では,震源距離60 km以内の観測点の計算波形を対象として,P波の初動走時を自動処理〔前田 (1985)〕により読み取った.さらに,1-2,2-4,及び4-8 Hzのバンドパスフィルタを適用した後に,P波の初動から1秒間の時間窓を設定して3成分合成最大振幅を測定した.仮定した震源モデルは4象限型の対称性を持つので,測定値を90゚毎に重合して,地殻構造の短波長不均質性と走時揺らぎ及び振幅揺らぎの関係を評価した.
結果・議論
走時揺らぎには,ランダム不均質の相関距離及び揺らぎの大きさの増大とともに大きくなる特徴が確認された.この特徴は,本研究の計算パラメタの範囲では,相関距離の変化についてより明瞭に見られた.具体的に,走時揺らぎの大きさは,震源距離50 kmの場合,西南日本のランダム不均質モデル〔Kobayashi et al. (2015); 相関距離1 km,揺らぎの大きさ0.03〕では0.1 s程度であった.また,一定の震源距離における走時には,その平均値のまわりにほぼ対称的に分布する特徴が見られた.ここで得られた知見は,地殻内地震の震源決定では,走時揺らぎの大きさによって震源決定精度と走時残差の下限が規定されることを示唆する.
走時揺らぎと振幅揺らぎの関係を調べたところ,両者の間に正の相関が確認された.すなわち,P波の到着が遅れるほど,振幅が大きくなる傾向が見られた.この傾向は,ランダム不均質の相関距離と揺らぎの大きさが大きいほど明瞭であった.また,低周波数ほど顕著であった.以上の解析結果は,P波の波線経路とその周囲の速度揺らぎによって,走時の変化が発生し,フォーカシング・デフォーカシング作用によって振幅も同時に影響を受ける可能性を強く示唆する.
謝辞
地震波伝播シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました.本研究はJSPS科研費18K03786の助成を受けています.