JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 地震波伝播:理論と応用

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)

[SSS12-P19] 2次元ランダム不均質媒質中を伝播する地震波のエネルギーフラックスの角度分布

*江本 賢太郎1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:散乱、角度スペクトル、コーダ

地震波が微細不均質媒質中を伝播すると,直達波の後に長いコーダ波が生じる.コーダは様々な方向から入射する散乱波によって構成されている.直達波の直後は多重前方散乱波が支配的であり,コーダ部分は後方散乱波が支配的である.コーダ部分のエネルギーは拡散モデルで近似されることがある.拡散状態を経たのちに,多重散乱がさらに卓越し,エネルギーフラックスが等方的になることで,エネルギー等分配の状態になるとされる.江本(2018 JpGU)は,ランダム不均質媒質中を伝播するスカラー波のエネルギーフラックスの角度分布を数値的に調べ,分布形状は媒質のパラメータには強く依存しないことを示した.スカラー波の散乱と異なり,地震波にはP波とS波が存在し,両者の変換散乱も発生する.さらに,ダブルカップル震源の輻射特性により,方位によってP波エネルギーとS波エネルギーの割合が異なる.本研究では,地震波の差分法シミュレーションを用いて,2次元ランダム不均質媒質中での地震波エネルギーフラックス の角度分布を調べる.



地震波のエネルギーフラックス は,速度ベクトルと応力テンソルから計算することができる.エネルギーフラックスのアンサンブルを角度スペクトルとみなす.媒質サイズは384 x 384 kmで,グリッド間隔は0.1 kmである.P波とS波の背景速度は一様で,それぞれ6.00 km/s,3.46 km/sとする.ランダム不均質は指数関数型自己相関関数で特徴づけられると仮定し,特徴的スケールが0.5 km,5 km,ゆらぎのRMS値が0.05の場合を考える.媒質の中央に4象限型のダブルカップル震源を設定する.震源時間関数は,中心周波数3 HzのKupperウェーブレットとする.震源距離25, 50, 75, 100 kmに観測点を配置する.各震源距離には,方位角45度刻みで8個の観測点を配置する.P波が強く出る方向をE45,S波が強く出る方向をE90とし,それぞれスタックする.計算時間は45秒までとする.



シミュレーションの結果,計算時間内では角度スペクトルは完全な等方にはなからなかった.Sコーダに比べてPコーダの方が強い非等方性が認められた.特徴的スケールが0.5 kmと5 kmの場合で,Sコーダ部分の分布形状に顕著な差は見られなかった.これは,スカラー波の場合と同様の結果である.一方,Pコーダ部分は,特徴的スケールが5 kmの方が,0.5 kmの場合と比べて非等方性が顕著だった.Sコーダ部分では分布が徐々に等方に近づいていくが,E90方向の方がより早く等方に近づいた.


今回の数値シミュレーションにより,S波コーダ部分の散乱波エネルギーフラックスの角度分布には,媒質のパラメータ依存性が弱いことが示された.しかし,Pコーダ部分は,P-S散乱の影響が現れ,媒質依存性が強いことがわかった.今後,3次元シミュレーションに拡張する予定である