JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 地震活動

コンビーナ:吉田 康宏(気象庁気象大学校)

[SSS13-P06] 函館市付近の浅部低周波地震と通常地震が混在する地震活動を対象とした稠密地震観測

*野口 科子1笠原 敬二1小菅 正裕2前田 拓人2雨澤 勇太2春山 太一2石田 早裕美2松野 有希2大類 樹3 (1.公益財団法人 地震予知総合研究振興会、2.弘前大学大学院理工学研究科、3.弘前大学理工学部)

キーワード:浅部低周波地震、稠密地震観測

本発表では,北海道函館市沖で発生する特異な地震活動を対象とした稠密地震観測について報告する.
北海道函館市沖では,地震予知総合研究振興会(以下,振興会)が設置・運用する地域観測網AS-netによって,10 kmより浅部で低周波地震が発生していることが確認された(野口・他,2018,Fig. 1のA).さらに,通常地震もこの低周波地震とほぼ同じ位置あるいは極めて近接して発生していると推定された.従来,低周波地震は,火山活動に伴うものを除けば,通常の地震が発生する脆性破壊領域ではなく,より深部の深さ約15~40 kmで発生すると考えられてきた.上記の函館浅部の地震活動は,こうした考えを覆すものである.上記地震活動の報告を受けて,日本全国の地殻内地震の一元化カタログから浅部の低周波地震を検出する試みもなされている(中島・長谷川,2019).
低周波地震の発生メカニズムについてははっきりと分かっていないが,地殻流体の存在や移動が関与するという説がある.地殻流体は低周波地震以外の地殻内地震の活動への関与も指摘されている.こうした中で,函館浅部の地震活動を詳しく調査することは,低周波地震の発生メカニズムの理解に留まらず,通常地震との関連を調べる上で重要であり,不可欠でもある.そのためには,通常地震・低周波地震の両方について十分に精度の高い震源位置や,流体の関与の手がかりとなる震源メカニズムなどが必要になるが,対象の地震規模が小さい(M<2)ことや震源が浅いことから,既設観測網のデータ密度では不十分である.
この地震活動の詳細を明らかにするため,振興会と弘前大学は,2018年10月より当該地震活動の周辺に短周期地震観測点の設置を開始した.2019年2月には合計14点が稼働している(Fig. 1).対象領域は市街地に近くノイズ源が多いため,観測点数を多めにすることとした.また,対象とする浅部の活動に加え,その5~10 km東の深さ15~35 kmに,他地域にもみられるような深部低周波地震活動が存在する(Fig. 1のB)ことから,これと浅部の活動との関連を調べるため,両者をカバーする観測点配置としている.地震計は固有周波数1 Hzの3成分型地震計であるLennartz LD-3Dliteを使用し,一部は数十cm埋設されている.電源にはソーラーパネル発電とバッテリーを使用している.データロガーは観測点によって様々であるが,特に観測地点へのアクセスが悪い観測5点は,携帯回線によるテレメータ化を施し,クラウドを通じて準リアルタイムに連続観測記録を取得している.これにより,解析の迅速化や活動状況の監視強化が図られると期待される.
本観測で対象としている低周波地震はその活動頻度が低く,気象庁一元化震源によれば,観測開始から2019年末までに浅部活動域で発生した低周波地震は4件,通常地震は2件であった.今後さらなるデータの蓄積を待って,テンプレートマッチングをはじめとした高精度の震源決定を試みる.観測点の増加により検出限界が下がり,より小規模なイベントも捕捉できると期待される.また,観測波形の特徴を調べ他地域・他地震との比較を行う.浅部の活動に加え,東側の深部低周波地震についても同様な解析を行う予定である.こうした解析に基づき,対象地震活動の解明を目指す.

謝辞
観測点の設置・運用にあたり,函館市をはじめとする関係各位には多大なご協力をいただきました.記して感謝いたします.

参考文献
野口科子・関根秀太郎・澤田義博・笠原敬司・佐々木俊二・田澤芳博・矢島浩・阿部信太郎石田貴美子,高密度観測網AS-netで捉えられた東北地方北部~北海道南西部の低周波イベントの分布と特徴,日本地震学会2018年度秋季大会,郡山,2018年10月,S23-P26.
中島淳一・長谷川昭,内陸における浅部低周波地震の検出とその時空間分布,日本地震学会2019年度秋季大会,京都,2019年9月,S08-09.