JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 地殻変動

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)

[SSS14-10] GNSS-A海底地殻変動観測から見る南海トラフの固着状態の変化

*石川 直史1横田 裕輔2渡邉 俊一1中村 優斗1 (1.海上保安庁海洋情報部、2.東京大学生産技術研究所)

Yokota et al. (2016) では、2006年 (一部2012年) から2015年6月までのGNSS-A海底地殻変動観測で得られた南海トラフ地震想定震源域の海底の地殻変動速度場からプレート境界におけるすべり欠損レートの推定を行った。その結果、陸上観測のみでははっきりと分からなかったすべり欠損レートの空間的不均質性が明らかにされた。Nishimura et al. (2018) は、同じデータを用い内陸のブロック運動等を考慮したより複雑なモデルですべり欠損レートや固着率の推定を行った。一方で、これらの結果はある特定の期間における平均的な速度場のスナップショットでしかないため、固着状態の時間的な変動については議論していない。

その後、Yokota & Ishikawa (2020)は、Yokota et al. (2016) 以降の2018年までのGNSS-Aデータを統計的に処理するによってプレート境界浅部において、スロースリップが発生している兆候を捉えることに成功した。スロースリップ由来の変動を検知した地点は、概ねNishimura et al. (2018)において固着が小さいと推定されている領域の浅部外側に位置し、強固着域とスロースリップ発生域の棲み分けを示唆する結果が得られた。

しかしながら、固着の推定に用いられたYokota et al. (2016)の速度場は、スロースリップ等の非定常変動を考慮せず、全期間を直線回帰した平均速度である。今では、Yokota and Ishikawa (2020)の解析によって、スロースリップの発生期間が一部含まれていることが分かっている。スロースリップ期間が含まれている観測点については平均速度が遅くなるため、スロースリップ発生域が固着の弱い領域と重なることはある意味自明の結果であると言える。

スロースリップの発生域と固着域の関係についてより正確に把握するためには、スロースリップの発生時と非発生時を適切に分離する必要があるが、現状のGNSS-A観測の観測頻度の少なさと観測期間の短さから、それらを正確に分離することは容易ではない。本発表では、現状のデータから速度場およびそれらから推定されるすべり欠損レートの時間変化がどこまで正確に把握できるか検討した結果について報告する。