JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 地殻変動

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)

[SSS14-P15] マルチチャンネル特異スペクトル解析とパラメトリック関数のフィッティングを併用した海底圧力計データの解析

*村田 耕一1佐藤 利典2塩原 肇3篠原 雅尚3山田 知朗4 (1.千葉大学大学院融合理工学府、2.千葉大学大学院理学研究院、3.東京大学地震研究所、4.気象庁)

キーワード:スロースリップイベント、海底圧力計、マルチチャンネル特異スペクトル解析

房総沖において、数年間隔で繰り返しスロースリップイベント (SSE) が起きていることが知られている。このSSEとは、通常の地震では断層面が急激 (秒単位) に滑るのに対し、ゆっくりとした速度 (数日以上) で滑る現象である。SSEはプレート境界面がゆっくり滑ることによってエネルギーを解放する機構であると考えられており、その理解は地震をはじめとするプレート境界で起こる様々な現象の理解のために重要である。本研究では海底圧力計 (OBP) データに基づくSSEによる海底の上下変動を検出するために、(1)はじめにマルチチャンネル特異スペクトル解析 (MSSA) を用いて20日程度以下の短周期成分を除去し、(2)残った長周期成分に対し季節変動成分とSSEによる変位を表すパラメトリック関数をフィッティングするという新たな解析手法を提案し、2018年房総沖SSEの期間を含むOBPデータに対しその手法を適用することでその有効性の検証を行った。

使用したデータはパロサイエンティフィック社製高精度水晶振動式水中圧力計を搭載したOBP4台を用いて、2016年8月から2018年9月の期間で観測を実施したものである。この期間中、2018年6月にSSEが発生したことが陸上のGNSSデータの解析から明らかになっている。

OBPで観測した圧力値から変換した水深値には、SSEによる1ヶ月程度の過渡的な変位の他に水深変化に影響を与える様々な成分が含まれている。まず、リサンプリングの後、潮汐変動の除去、7日間移動平均による平滑化の手順を実施し、数日程度以下の周期を持つ変動を取り除いた。次に、数日から20日程度の周期を持つ気圧の変化や海洋変動等の除去を行うため、20日間のウィンドウ幅でMSSAを実行した。MSSAにより、半年から1年程度の周期が卓越する第1成分と第2成分、20日程度の周期が卓越する第3成分と第4成分、それらよりも寄与率の小さいノイズと思われる成分がそれぞれ抽出された。

第3成分と第4成分を気圧変化や海洋変動等によるものと仮定し、ノイズ成分とともに除去した。残りの第1成分と第2成分を足すことで信号を再構成した。再構成成分に含まれる長周期成分の周期は陸上GNSSと同様と仮定し、再構成信号に対して1年周期と半年周期の変動、SSEによるギャップを表現するパラメトリック関数をフィッティングした。フィッティングの結果、4観測点すべてで隆起が検出された。隆起 (および誤差) はBOSO1で15.5 mm (13.8 mm) 、BOSO2で23.6 mm (6.7 mm) 、KAP2で21.0 mm (6.5 mm) 、KAP3で13.1 mm (6.9 mm) であった。

従来のパラメトリック関数のフィッティングのみを行う場合とMSSAを併用する場合の両方で2018年SSEの滑りを推定した。滑りから計算された各観測点の上下動と実際に検出された上下動のRMSを比較すると、MSSAを併用する方がRMSは約58%小さくなった。これはMSSAにより数日から20日程度の周期変動を除去することで、より正しくSSEによる海底の上下動を検出できたことを示していると言える。

謝辞
本研究の遂行にあたり、「第三開洋丸」、「第五開洋丸」を使用させて頂きました。両船長以下、乗組員の方々に感謝します。
解析では国土地理院の日々の座標値 (F3解) を使用しました。記して感謝します。
本研究は文部科学省の「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の支援および科研費(25287109) の補助を受けました。