JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 地殻変動

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)

[SSS14-P23] 南九州せん断帯におけるGNSS観測(第4報)

*渡部 豪1浅森 浩一1島田 顕臣1小川 大輝1雑賀 敦1梅田 浩司2 (1.日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2.弘前大学大学院 理工学研究科)

キーワード:せん断帯、すべり速度、固着域の深さ、2016年熊本地震、粘弾性変形、GNSS観測

九州地方南部には、GNSS速度場を用いたひずみ速度の解析から、10-7/yrを超えるせん断ひずみ速度の集中域が存在し、1997年の鹿児島県北西部地震など横ずれ型の震源メカニズムを有するマグニチュード6クラスの地震が発生している。それらの地震やせん断ひずみ速度の集中域に対応する明瞭な活断層は認められていないが、地下深部での断層運動を示している。そこで、本研究では、地形的に不明瞭な活断層を検出するための技術開発を目的として、同領域(南九州せん断帯)での現行の地殻変動をより詳細に推定するため、10点のGNSS観測点からなる稠密観測網を構築し2016年3月より観測を開始した。
GNSS観測点は、南九州せん断帯を境に南北に約40 kmの範囲に位置する建物の屋上に設置した。ここでは、2周波の受信機を用いて30秒サンプリングでデータの収録を行っている。また、電源供給にはソーラーパネルとバッテリーを組み合わせて用いている。GNSSデータの解析には、Bernese GNSS software (ver.5.2)を使用し、稠密観測網周辺に位置する4つの国土地理院GEONET観測点を基準として、2016年4月18日~2019年11月17日の日座標値を推定した。ここでは、IGS精密暦や地球回転パラメータ、CODEの電離層モデル、P1-C1コードバイアスなどのデータも利用した。さらに、九州地方の約150点のGEONET観測点の日座標値を用いて共通誤差成分の除去を行い、2016年熊本地震に伴う粘性緩和による地殻変動の除去、桜島・霧島山での火山活動に関連する地殻変動の除去を経て、年周・半年周変動とともに変位速度を抽出した。
得られた変位速度を用いた地殻変動の解析には、Savage and Burford (1973)の半無限弾性体中での鉛直横ずれ断層運動モデルを適用した。このモデルは、地表からある深さまでを固着域(固着域下限の深さ)とし、それ以深ではすべり(断層)面を境界として二つのブロックがある速度(すべり速度)で相対運動している状態を示す。このとき、すべり面の走向に平行な成分の変位速度プロファイルをとると、すべり面を境にarctangentの形となる。このモデルに基づき、本研究で得られたGNSS変位速度を満足する最適なせん断帯の走向をグリッドサーチにより推定した結果、N104.8°Eと求まった。また、せん断帯のおおよその中心(32°N、130.5°E)から南北方向に約60~80 km、東西方向に約25 kmの矩形領域に含まれるGNSS観測点の変位速度データを用いて非線形の最小二乗フィッティングを行った結果、すべり速度は12.9±1.8 mm/yr、固着域下限の深さは22.4±6.9 kmと推定された(図1)。
これらの推定値に関する精度評価として、観測期間の違い(期間を上記の約3.6年間と2016年4月18日~2018年4月18日までの2年間とした場合)による推定値の差や推定誤差を比較した結果、それぞれの期間におけるすべり速度などの推定値は誤差の範囲で一致した。ただし、観測期間を長くとることによって各観測点における変位速度のばらつきは軽減した(約3.6年間での速度東西成分の標準偏差は0.44 mm/yr、南北成分の標準偏差は0.99 mm/yrであることに対し、2年間での速度東西成分の標準偏差は0.58 mm/yr、南北成分の標準偏差は1.06 mm/yr)。
本研究における観測及び解析によって推定されたせん断帯の走向は、1997年鹿児島県北西部地震の余震分布から推定されるおよそ東西走向の震源断層と調和的であることから、以上の結果は、主として下部地殻におけるせん断すべりがその発生に寄与した可能性を示唆する。

本発表は、経済産業省資源エネルギー庁からの委託事業である「平成31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。