JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 地震発生の物理・断層のレオロジー

コンビーナ:吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、金木 俊也(京都大学防災研究所)、野田 博之(京都大学防災研究所)

[SSS15-18] スロー地震と巨大地震が共存する浅部デコルマの断層破壊メカニズム:掘削試料を用いた断層破壊数値計算による検討

★招待講演

*矢部 優1鈴木 岳人2 (1.産業技術総合研究所、2.青山学院大学)

キーワード:断層破壊数値計算、多孔質弾性体、巨大地震、スロー地震

南海トラフ熊野灘の浅部プレート境界では,地球物理学的な観測によりスロー地震が繰り返し発生していることが明らかになっている.一方で,陸上の津波堆積物などの研究によると過去に南海トラフ巨大地震に伴って大きな津波が発生したことが指摘されており,現在スロー地震が発生している浅部プレート境界でも大きな滑りが生じた可能性が指摘されている.さらに同地域では海洋科学掘削も精力的に行われており,これまでにデコルマの出口近傍の岩石試料が採取されている.この岩石試料には,断層近傍に発熱の痕跡が報告されており,高速破壊が起きた証拠と考えられている.その一方で同じ断層の微細構造の観察からはゆっくりとした変形が指摘されており,スロー地震の痕跡と解釈できる.このように様々な研究から同一断層上で頻繁に発生するスロー地震と稀に発生する巨大地震が共存していることが指摘されているが,その発生メカニズムは明らかになっていない.本研究では,掘削された実際の断層の物性分布を数値計算上で再現し,Dilatancy Hardening (DH)とThermal Pressurization (TP)を考慮した断層破壊数値計算を行い,同一断層上でのスロー地震と巨大地震の共存が可能であるのかを検証することを目指す.
 デコルマ周辺の付加体は空隙の高い多孔質弾性体と見做すことができる.多孔質弾性体の各種物性は空隙率に大きく左右される.そこで,本研究ではYabe et al. (2019, doi: 10.1186/s40623-019-1097-4)やその他の研究で求められた経験式を用いて,掘削された断層周辺の岩石試料のXCTデータから空隙率の分布を推定し,さらに推定した空隙率を熱伝導率や透水率などの各種物性値に変換し,断層周辺の物性分布を推定した.推定された物性分布をSuzuki & Yamashita (2014, doi:10.1002/2013JB010871)のDHとTPを考慮した面直一次元断層破壊数値計算モデルの媒質として取り込み,断層上でどのような破壊が生じるかを調べた結果について報告する.