JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 地震発生の物理・断層のレオロジー

コンビーナ:吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、金木 俊也(京都大学防災研究所)、野田 博之(京都大学防災研究所)

[SSS15-P06] 繰り返し地震の影響による炭質物熱熟成反応の変化の実験的検証

*島村 優太朗1廣野 哲朗1向吉 秀樹2 (1.大阪大学 大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻、2.島根大学 大学院 総合理工学研究科 地球資源環境学領域)

キーワード:繰り返し地震、摩擦発熱、炭質物、分光分析

地震時の断層での摩擦発熱の検出指標の1つとして炭質物の熱熟成反応が挙げられる。炭質物は温度の上昇とともに弱い化学結合が分解、官能基の脱離等を引き起こし、約800℃以上ではグラファイト構造への変化が生じる。これまでの先行研究では、様々な手法(赤外分光法・ラマン分光法や質量分析法、元素組成分析、ビトリナイト反射率測定など)が用いられてきた。しかし、いずれの手法でも、繰り返す地震イベントを想定した累積加熱の影響についての実験的な検証が実施されていない。そこで、本研究では炭質物の熱熟成反応における累積加熱の影響の解明を目的とし、室内加熱実験によって複数回数の加熱処理を施した瀝青炭と無煙炭の赤外・ラマン分光分析とビトリナイト反射率測定を実施した。実験手法として、炭質物をガラス管に真空封入後、管状加熱炉で加熱した。加熱温度は100, 300, 500, 700, 900, 1100, 1300℃の7通り、加熱時間は地震時の瞬間的な摩擦発熱を模擬した40秒、そして繰り返し地震による累積加熱を模擬するために各温度において1, 10, 100回の加熱処理を実施した。また、瀝青炭においてのみ500℃にて8, 16時間、600℃にて8時間の長時間加熱処理を実施した。加熱後の試料における赤外・ラマン分光分析およびビトリナイト反射率測定の結果、各温度、各分析手法ともに加熱回数による差は有意ではなかった。一方で、長時間加熱では、500℃での8時間加熱で消失しなかった脂肪族CH鎖が16時間加熱で消失が確認された。よって、地震時の短いタイムスケールの摩擦発熱では、100回に至るイベントを履歴したとしても、化学反応速度的制約により、熱熟成はほとんど進行しないと結論できる。よって、断層内の炭質物が記録している温度は、かつてその断層が履歴した最大規模の地震イベントを保存していると言える。