[SSS15-P20] 1896年陸羽地震の分岐断層から生じた地震動の評価(動力学的破壊シミュレーションによる予備的検討)
キーワード:分岐断層、動力学的破壊シミュレーション、地震動評価、副次断層
1.はじめに
東北地方ではインバージョンテクトニクスに起因する逆断層型の内陸地殻内地震が多く発生しているが,中には2008年岩手・宮城内陸地震のように,西傾斜の主断層と共役的な東傾斜の断層が活動した例がある。岩手・宮城内陸地震では,東傾斜の断層延長上に地震断層は認められていないが,共役側の分岐断層に地震断層が認められた例としては1896年陸羽地震の川舟断層がある。このような主断層の共役側の分岐断層の活動がどのような地震動をもたらすかについては,主断層の上盤側に位置する地域の地震動評価においては重要となるため,陸羽地震を対象として分岐断層から生じた地震動の評価を試みる。
予備的検討として,陸羽地震では,松田ら(1980)により地表面変位の実測値がとりまとめられているため,これらの観測データと整合する動力学的破壊シミュレーションモデルを構築し,主断層(千屋断層)と分岐断層(川舟断層)から放出されたエネルギー量の比率等について評価した。
2.解析モデル
副断層や分岐断層も含めた評価の第一段階として,1896年陸羽地震を対象として動力学的破壊シミュレーションを2次元有限要素法により実施した。2次元とした理由として,1896年陸羽地震では千屋断層の東側の一部に川舟断層が出現していることから,変位量の大きい主断層に呼応して分岐断層が発生したとみなし,これを簡易的に模擬するためである。
本検討では主断層および分岐断層をジョイント要素でモデル化し,応力降下を考慮した摩擦構成則を与えることで自発的破壊による主断層および分岐断層の破壊を模擬した。断層形状は東京大学地震研究所要覧(2001)における調査の結果を参考に,主断層および深さ約8kmから分岐する分岐断層と深部地盤構造を図のようにモデル化した。地盤は表層部分を除き断層の近傍は均質地盤としてモデル化している。
3.主断層のシミュレーション解析
はじめに分岐断層を考慮せず,主断層のみの破壊を考慮した解析を実施した。その際,断層の応力降下量はAndrews(1980)に基づいて断層周辺の地盤剛性に比例させて定めることとし,松田ら(1980)により報告されている地表面変位の実測値と整合するように摩擦構成則のパラメータを定めた。
結果として,応力降下量は主な領域で2.0MPaとなり,既往地震の報告と概ね整合する値となった。ただし本検討は2次元解析である為,モデル奥行方向に一様な構造を仮定したものとなり,断層端部が拘束される実際の断層変位に比べて設定した応力降下量に対する変位が大きめに評価されている事が予想される。
4.主断層および分岐断層のシミュレーション解析
次に,分岐断層に対して主断層と同様の摩擦構成則,初期応力を与えた検討を行った。応力降下量を2.0MPaとした際には分岐断層にほぼ活動は生じない結果となった。応力降下量を1.0MPaとしたケースでは,分岐断層に変位が生じ,主断層の地表面における食い違い量は松田ら(1980)により報告されている実測値と同程度となり,分岐断層のすべり量は主断層の0.5倍程度と、こちらも松田ら(1980)による報告と概ね整合した。なお応力降下量を下げた場合にのみ分岐断層の変位が生じたのは,断層の破壊強度を応力降下量に比例させたためである。
本解析結果を用いて主断層および分岐断層のそれぞれから発生する地震モーメントの分担率を比較した。本検討が2次元解析であることから,断層周辺の地盤剛性が概ね均質であると仮定すると断層の平均すべり量と断層幅の積に比例する。主断層の平均すべり量に対する分岐断層の平均すべり量と,それぞれの断層幅から,分岐断層の分担率は全体の十数パーセントという結果を得た。ただし,実測における分岐断層の長さは主断層に比べて明らかに短いため,2次元モデルでは考慮できない断層長さ方向の不均質を考慮すると分岐断層の生じる地震モーメントはより小さくなることが予想される。また,参考に主断層・分岐断層それぞれの地表面近傍における応答を比較した。分岐断層の地表面近傍の応答は主断層のそれと比べて小さく,これからも分岐断層から生じる地震動は主断層と比べて小さいことが予想される。
5.今後の検討
陸羽地震では,震度分布や住戸全潰率分布等がとりまとめられている。今回の動力学シミュレーションモデルから得られた結果を運動力学的シミュレーションモデルに反映し,得られる地震動評価結果と陸羽地震の地震動指標との比較を通じ,川舟断層から発生された地震動について検討していく。
東北地方ではインバージョンテクトニクスに起因する逆断層型の内陸地殻内地震が多く発生しているが,中には2008年岩手・宮城内陸地震のように,西傾斜の主断層と共役的な東傾斜の断層が活動した例がある。岩手・宮城内陸地震では,東傾斜の断層延長上に地震断層は認められていないが,共役側の分岐断層に地震断層が認められた例としては1896年陸羽地震の川舟断層がある。このような主断層の共役側の分岐断層の活動がどのような地震動をもたらすかについては,主断層の上盤側に位置する地域の地震動評価においては重要となるため,陸羽地震を対象として分岐断層から生じた地震動の評価を試みる。
予備的検討として,陸羽地震では,松田ら(1980)により地表面変位の実測値がとりまとめられているため,これらの観測データと整合する動力学的破壊シミュレーションモデルを構築し,主断層(千屋断層)と分岐断層(川舟断層)から放出されたエネルギー量の比率等について評価した。
2.解析モデル
副断層や分岐断層も含めた評価の第一段階として,1896年陸羽地震を対象として動力学的破壊シミュレーションを2次元有限要素法により実施した。2次元とした理由として,1896年陸羽地震では千屋断層の東側の一部に川舟断層が出現していることから,変位量の大きい主断層に呼応して分岐断層が発生したとみなし,これを簡易的に模擬するためである。
本検討では主断層および分岐断層をジョイント要素でモデル化し,応力降下を考慮した摩擦構成則を与えることで自発的破壊による主断層および分岐断層の破壊を模擬した。断層形状は東京大学地震研究所要覧(2001)における調査の結果を参考に,主断層および深さ約8kmから分岐する分岐断層と深部地盤構造を図のようにモデル化した。地盤は表層部分を除き断層の近傍は均質地盤としてモデル化している。
3.主断層のシミュレーション解析
はじめに分岐断層を考慮せず,主断層のみの破壊を考慮した解析を実施した。その際,断層の応力降下量はAndrews(1980)に基づいて断層周辺の地盤剛性に比例させて定めることとし,松田ら(1980)により報告されている地表面変位の実測値と整合するように摩擦構成則のパラメータを定めた。
結果として,応力降下量は主な領域で2.0MPaとなり,既往地震の報告と概ね整合する値となった。ただし本検討は2次元解析である為,モデル奥行方向に一様な構造を仮定したものとなり,断層端部が拘束される実際の断層変位に比べて設定した応力降下量に対する変位が大きめに評価されている事が予想される。
4.主断層および分岐断層のシミュレーション解析
次に,分岐断層に対して主断層と同様の摩擦構成則,初期応力を与えた検討を行った。応力降下量を2.0MPaとした際には分岐断層にほぼ活動は生じない結果となった。応力降下量を1.0MPaとしたケースでは,分岐断層に変位が生じ,主断層の地表面における食い違い量は松田ら(1980)により報告されている実測値と同程度となり,分岐断層のすべり量は主断層の0.5倍程度と、こちらも松田ら(1980)による報告と概ね整合した。なお応力降下量を下げた場合にのみ分岐断層の変位が生じたのは,断層の破壊強度を応力降下量に比例させたためである。
本解析結果を用いて主断層および分岐断層のそれぞれから発生する地震モーメントの分担率を比較した。本検討が2次元解析であることから,断層周辺の地盤剛性が概ね均質であると仮定すると断層の平均すべり量と断層幅の積に比例する。主断層の平均すべり量に対する分岐断層の平均すべり量と,それぞれの断層幅から,分岐断層の分担率は全体の十数パーセントという結果を得た。ただし,実測における分岐断層の長さは主断層に比べて明らかに短いため,2次元モデルでは考慮できない断層長さ方向の不均質を考慮すると分岐断層の生じる地震モーメントはより小さくなることが予想される。また,参考に主断層・分岐断層それぞれの地表面近傍における応答を比較した。分岐断層の地表面近傍の応答は主断層のそれと比べて小さく,これからも分岐断層から生じる地震動は主断層と比べて小さいことが予想される。
5.今後の検討
陸羽地震では,震度分布や住戸全潰率分布等がとりまとめられている。今回の動力学シミュレーションモデルから得られた結果を運動力学的シミュレーションモデルに反映し,得られる地震動評価結果と陸羽地震の地震動指標との比較を通じ,川舟断層から発生された地震動について検討していく。