JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS16] 活断層と古地震

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)

[SSS16-P05] 根尾谷断層の極浅部における基盤岩中の最新すべり面の特徴

津留 合気1、*大谷 具幸1矢田部 和真1 (1.岐阜大学工学部社会基盤工学科)

キーワード:最新すべり面、極浅部断層破砕帯、根尾谷断層

活断層の活動性評価には若い被覆層が必要であり,現状ではそれがなければ評価を行うことができない.そこで,基盤岩の断層破砕帯より活動性を評価する手法の開発が望まれる.そこで,地震の際に大きな変位を生じた履歴を有する活断層を対象として,地表面から比較的近い極浅部を対象として,基盤岩中の断層破砕帯における最新すべり面の特徴を変形構造,鉱物組合せ,化学組成から明らかにすることが本研究の目的である.

本研究では,1891年に濃尾地震を引き起こした根尾谷断層を対象とする.研究対象とする地点は濃尾地震のときに3 mの左横ずれ変位を生じた岐阜県本巣市根尾長嶺と同じく8 mの本巣市日当である.いずれの地点も,基盤岩として美濃帯の泥岩基質メランジュが分布しており,チャート・珪質頁岩・砂岩・玄武岩をブロックとして含んでいる.根尾長嶺では,最新すべり面を挟んで北東側に黒色泥岩,南西側に珪質頁岩が分布する.基盤岩中の破砕帯には黒色泥岩及び珪質頁岩起源の断層角礫・断層ガウジが分布しており,泥岩起源の断層ガウジが最新すべり面である.日当では,最新すべり面の直近では北東側に玄武岩,南西側に泥岩が分布しており,両者を起源とする断層ガウジが認められる.最新すべり面は淡黄色を示し,野外では原岩を特定することができない.なお,いずれの地点でも基盤岩中の断層破砕帯は第四紀の河川堆積物に覆われており,最新すべり面に沿って礫の回転が認められる.

両地点からブロック試料を採取し,研磨片を作成して,変形構造を観察した.いずれの地点も,最新すべり面の中に直近の基盤岩起源ではない礫を含んでいる.根尾長嶺では,径2 mmの円礫が最新すべり面沿いに配列しており,その礫種としてチャート礫等が認められる.日当では,径5 cmのチャートの亜円礫,径1 cmの砂岩の円礫が含まれている.

最新すべり面を含めて断層破砕帯より粉末試料を採取し,粉末X線回折分析,蛍光X線分析を行った.いずれの地点も,断層ガウジの多くにスメクタイトが含まれるのに加えて,日当の最新すべり面にはカオリナイトが認められる.また,最新すべり面とその周囲の断層岩類,及び原岩との間で明瞭な元素移動は認められない.
最新すべり面に含まれる礫は,その産状から基盤岩中からではなく,直上の河川堆積物から供給されたと考えられる.この点は,地表付近の風化作用により生成されるカオリナイトが日当の最新すべり面には含まれること,明瞭な元素移動が見いだされないことからも支持される.また,濃尾地震における変位量がより大きい日当で,より径の大きな礫が最新すべり面に含まれている.これは変位量が大きいほど,最新すべり面に沿って地表付近でより大きな開口を生じたことを示唆している.Scaringi et al. (2018)は低封圧下での地すべり粘土のリングせん断試験より,変位量が大きいほど地すべり粘土の膨張が大きいことを示している.よって,濃尾地震の際により深部で最新すべり面に沿って断層ガウジの膨張が生じ,それに伴い地表付近では開口が生じたと考えられる.また,基盤岩中の最新すべり面に直上の礫が取り込まれ,かつその礫を含む地層の堆積年代が既知の場合には,最新すべり面の活動時期は堆積年代以降とみなすことができる.