JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS16] 活断層と古地震

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)

[SSS16-P10] 熊本県益城町平田における古地震学・変動地形学的調査に基づく布田川―日奈久断層帯の活動履歴と水平変位

*岩佐 佳哉1熊原 康博2後藤 秀昭3鳥井 真之4 (1.広島大学大学院教育学研究科・院生、2.広島大学大学院教育学研究科、3.広島大学大学院文学研究科、4.熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター)

キーワード:2016年熊本地震、地表地震断層、トレンチ掘削調査、水平変位

2016年4月16日,布田川-日奈久断層帯の再活動により熊本地震(Mj7.3)が発生し,右横ずれ変位を主体とする長さ約31kmの地表地震断層が出現した(熊原・大学合同調査グループ,2016;Shirahama et al., 2016).
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013)が熊本地震前に行った断層帯の活動性に関する評価では,断層帯の変位速度は0.1-0.3mm/yr,活動間隔は8,100-26,000年程度とされている.しかし,地震後に地表地震断層に沿って行われたトレンチ掘削調査では,熊本地震より一つ前の活動時期が1,000-4,000年前であることが示された(上田ほか,2018;岩佐ほか,2018;遠田ほか,2019).また,断層帯北東部では断層露頭の調査と河谷の屈曲量に基づいて,断層帯の水平変位速度が1.5-3.7mm/yr,活動間隔が500-2,000年と示されている(石村,2019).一方で,断層帯中央部以南における活動履歴や変位速度の検討は十分とは言えない.そこで演者らは,断層帯の活動履歴と水平変位速度を明らかにすることを目的に,断層帯の中央部に位置する益城町平田において,2019年9月に古地震学的調査と変動地形学的調査を行った.
調査地点は益城町平田中公民館の東に位置する旧耕作地である.調査地点の南にはAso-1からAso-4の火砕流堆積物からなる丘陵が分布し,旧耕作地は丘陵の開析谷の出口付近に形成された離水扇状地面にあたる.丘陵の開析谷は旧耕作地の西で離水扇状地面を開析しており,この開析谷には約5mの屈曲が認められた.旧耕作地には,熊本地震時に左雁行する地表地震断層が出現した.この地表地震断層の西延長上に位置する平田中公民館敷地内のフェンスは約1.2m右横ずれしていた.堆積している地層の三次元構造を把握するために,地表地震断層に直交する向きで幅約2.5m,長さ約6m,深さ約1.8mの大きさのトレンチAと,その約10m西側に地表地震断層の走向に沿う向きで幅約1.5m,長さ約3.5m,深さ約1.3mの大きさのトレンチBを掘削した.
トレンチAの壁面には主に表土層,礫・シルト互層,シルト層が露出した.礫・シルト互層は壁面の北側に認められ,北へ傾斜する.単層の厚さは20-40cmで,中礫を主とする基質支持の礫層と細礫を含むシルト層の19の層が互層をなす.自形の角閃石を多量に含むことから,主にAso-4を起源とする離水扇状地の構成層であると考えられる.礫・シルト互層の最上位層からは10,408-10,229calBPを示す年代試料が得られた.シルト層は壁面の南側にのみ分布する.トレンチ壁面には礫・シルト互層とシルト層とを境する主断層と礫・シルト互層を変位させる3条の副次的な断層の計4条の断層が認められた.主断層は壁面下部では1条の断層面をなし,幅約5cmの断層粘土を伴う.上方では数条の断層に分岐するフラワー構造を呈し,西壁面では分岐した断層が地表の開口亀裂に連続する.副次的な断層は礫・シルト互層の最上位層の基底までを約50cmずつ南落ちに変位させている.最上位層の上面には変位が認められず,熊本地震時には活動していないと考えられる.
トレンチBの壁面と底面には礫・シルト互層とこれを境する断層,礫・シルト互層を覆う礫層が露出した.礫・シルト互層はトレンチAのものと同様に北へ傾斜し,各単層の厚さは20-40cmであった.層相からトレンチAに露出したものに対比されると考えられる.礫・シルト互層を覆う礫層は基質支持で淘汰の悪い土石流堆積物であり,礫・シルト互層とともに離水扇状地面を構成する堆積物であると考えられる.土石流堆積物の基底部からは5,270-4,871calBPを示す年代試料が得られた.
トレンチA・Bの壁面の観察に基づき,約1万年前以降に熊本地震を含めて少なくとも2回の断層活動を推定した.トレンチA・Bで見られた地層の堆積構造と断層変位,および地層から得られた年代試料の放射性炭素年代測定に基づくと,熊本地震の1つ前のイベント年代は4,800-10,400年前である.なお,トレンチ掘削地点では4,800年前以降の地層が堆積していないため,4,800年前以降のイベントを読み取ることができない.
一方,両トレンチで認められた礫・シルト互層の平面構造に基づくと,少なくとも2.9mの横ずれ変位を受けていることが明らかとなった.この変位量は熊本地震時の変位量(約1.2m)より大きいことから,複数回の変位を受けていると考えられ,壁面の観察による上記のイベント解釈とも矛盾はない.本調査は予稿投稿時点においても継続中であり,断層帯の水平変位速度については当日に発表を行う予定である.
謝辞:本研究の一部は科学研究費補助金基盤研究(A)「熊本地震から学ぶ活断層ハザードと防災教育―活断層防災学の構築を目指して」(課題番号:JP18H03601,研究代表者;鈴木康弘)の助成により実施した.