JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS16] 活断層と古地震

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)

[SSS16-P12] スマトラ断層アチェセグメントの断層変位地形と組織地形

*副田 宜男1堤 浩之2松多 信尚3Nazli Ismail4Bukhari Ali4 (1.西日本技術開発株式会社、2.同志社大学、3.岡山大学、4.シアクアラ大学)

キーワード:スマトラ断層、Acehセグメント、断層変位地形、組織地形

スマトラ断層(Sumatran fault)は,スンダ海溝に沿うインド・オーストラリアプレートの斜め沈み込みによって形成された,延長距離約1,900 kmの島弧中央横ずれ断層である(Sieh and Natawidaja, 2000など).右横ずれの変位速度は5mm/年から27mm/年と求められており,北西部ほど変位速度が大きいとされている (Natawidjaja and Triyoso, 2007; Natawidjaja, 2018).スマトラ断層に沿っては地震活動も活発で,過去約120年間にマグニチュード7以上の大地震が10個以上発生している(Hurukawa et al., 2014).スマトラ断層北西部のAcehセグメントとSeulimeumセグメントにおいては過去120年間,大地震が発生しておらず,地震の空白域とされている(Hurukawa et al., 2014).しかし,この地域のスマトラ断層に関するデータは極めて少なく,断層トレースの詳細な位置や変位速度,活動履歴など,不明な点が多い.
このような背景のもと,2012年より,アチェ州においてスマトラ断層北端部の変動地形学調査及び古地震学調査を進めてきた.2015年にはSeulimeumセグメントでトレンチ掘削調査を行い,過去3回の断層活動の痕跡を認定した(堤ほか,2018など).
Acehセグメントの北西端部においては,Barisan山地の北東縁が直線的な山麓線をもってAceh平野と接しており,この山地基部に断層トレースが推定されているが(Sieh and Natawidaja, 2000など),山麓線に沿って明瞭な変位地形はこれまで確認されていなかった.2019年,この区域を対象に変動地形学調査を行った結果,直線的な山麓線に平行に延びる活断層を平野内に認定した.また,山麓線の地形境界には鞍部列や地形リニアメントが認められるが,第四紀後期の活動性を示唆する地形・地質学的データは得られず,これらの地形は組織地形であると評価した.
本調査ではまず,空間分解能がそれぞれ2.5mと30mであるALOSのPRISM及びAW3D30から作成した立体視像を用いて地形判読を行い,活断層分布図を作成した.その後,変位地形が認められた箇所を中心に現地調査を行った.現地においてアクセスが困難な場所は,ドローンを用いた空撮による地形確認を行い,変位地形の把握を試みた.
Acehセグメントの活断層は,一般走向N50oW でほぼ直線的にのびる.Jantho より南東方においては,断層トレースの多くの部分は山地内を通過し,河谷の系統的な右屈曲,鞍部列,分離丘などの断層変位地形が認められる.Janthoより北西方へは, Barisan山地とAceh平野が接する山麓線から数km平野内側に,線状谷や南西向き低断層崖などの断層変位地形が5o25’N付近まで認定される.
Barisan山地とAceh平野の地形境界には鞍部列,地形リニアメント,河谷の系統的屈曲が判読される.現地調査の結果,これらの地形が石灰質砂岩と泥岩の境界などの地層境界に位置する場合や断層破砕帯が存在する場合などがあることが確認された.断層露頭の観察では,断層は上位の地層(石灰質砂岩)を切断していないことが把握された.これらより,地形境界に認められる鞍部列,地形リニアメント,河谷の系統的屈曲を組織地形と判断した.Barisan山地とAceh平野の地形境界には断層は存在するものの,この断層を活断層として認定する地形・地質学的証拠は得られなかった.
本調査の結果,Acehセグメントの活断層トレースは,北西方向へAceh平野内を5o25’N付近まで認定された.5o25’N付近より北西方向への活断層の連続性は地形学的には認定されていないが,Banda Aceh市沖合の海域に,Acehセグメントの延長部としての活断層の存在が指摘されていることも考慮すると(Ghosal et al., 2012),Aceh平野内を伏在断層として活断層が北西方向へ延びている可能性が考えられる.
Aceh平野には人工密集地であるBanda Aceh市が位置しており,地震危険度評価の観点からも,Aceh平野内における活断層の分布把握のためのさらなる調査が望まれる.
謝辞:調査に要した費用の一部には,科学研究費補助金基盤研究(B)海外学術調査(「プレート沈み込みと内陸長大横ずれ断層の相互作用:巨大地震発生後のスマトラ断層」,研究代表者:田部井隆雄)を使用した.記して謝意を表します.