[SSS16-P14] 断層ガウジの化学組成を用いた線形判別分析による断層の活動性の推定
キーワード:断層の活動性、断層ガウジの化学組成、線形判別分析
はじめに:活断層の認定は,現在の地形及び第四紀後期の被覆層の変位・変形によりなされるが,第四紀の被覆層が存在しない地域における断層の活動性の決定は困難となる.立石ほか(2019)は,国内における活断層と非活断層の断層ガウジの化学組成データを用いて線形判別分析を行い,得られた複数の判別式が両者を誤判別なく識別できること,両者の違いを表す元素の組み合わせがTiO2,Al2O3,MgO,Na2O,P2O5,Baの6元素に絞られることを示した.本研究は,両者の違いを表す元素の絞り込みと,より良い判別式の取得を目的として,立石ほか(2019)からデータを追加して線形判別分析を行い,得られた判別式の判別能力や両者の違いを表す元素について再度検討した.
手法:本研究は,文献収集→断層岩の化学組成データの抽出→新たな化学分析データの追加→断層岩の化学組成データベースの作成→入力データの整理→変数選択→線形判別分析という流れで行った.文献収集は,国内の断層岩の化学組成データが記載されている論文を対象とした.この際,分析対象が活断層か非活断層か文献に明記されていること,多様な基盤岩を持つことを抽出条件とした.また,原子力機構保有の断層岩試料の化学分析を行い,両者を統合したデータベースを作成した.このデータベースには,各試料の試料名と分析値のほか,活動性に関する2つの分類を与えた.次に,このデータベースから断層ガウジのものを抽出し,できるだけ試料数が多くなるように元素を取捨選択した.これを入力データとして,判別に適した元素を抽出するため,赤池情報量基準(AIC:Akaike,1973)を用いて変数選択を行った.最後に,AICで選択された元素の組合せを説明変数として線形判別分析を行った.線形判別分析は,多次元における2群の中心点を基準として,2群が最も良く分かれる判別式を一次式として求める手法である.今回のように元素を説明変数とした場合,判別式の形はY=β1×SiO2+β2×TiO2+...-αという形をとる(αとβは判別係数).
結果:文献収集により,公表論文8編と原子力機構の報告書7編から断層岩の化学組成データを抽出した.これに原子力機構保有の断層岩36試料の化学分析結果を加えた総数276試料のデータベースから断層ガウジのデータを抽出し,説明変数の候補となる元素をSiO2,TiO2,Al2O3,Fe2O3*,MnO,MgO,CaO,Na2O,K2O,P2O5,Rb,Sr,Y,Ba,Thの15元素とした.試料の数は立石ほか(2019)から15試料追加され,活断層48試料,非活断層24試料の合計72試料となった.次いでAICを行った結果,Al2O3,CaO,Rb,Ba,TiO2,P2O5,MgO,Th,Y,Sr,MnOの11元素がp値に基づく重み順に説明変数の候補として選択された.これらの結果から,①AICで選択された11元素,②AICでp値が0から0.01の間となった8元素(Al2O3,CaO,Rb,Ba,TiO2,P2O5,MgO,Th),③AICでp値が0から0.001の間となった6元素(Al2O3,CaO,Rb,Ba,TiO2,P2O5)の組合せで線形判別分析を行った.その結果,活断層と非活断層の判別率は①②で100%,③で97%となった.
2群の違いを表す元素についての考察:①②③の線形判別分析の結果,いずれも高確率で活断層と非活断層の2群が分けられた.①②③で得られた判別式における各元素の係数を降順で並べると,各ケースで順位の違いはあるが,上位6位の元素(TiO2,Al2O3,CaO,P2O5,Rb,Ba),上位4位の元素(TiO2,Al2O3,P2O5,Rb)は共通であった.この中で,TiO2とP2O5,Al2O3とRbの組合せは2群と高い相関係数を示す.また,これらの元素の化学組成の分布パターンは3つに分けられ,TiO2,CaO,P2O5,Baは非活断層で低い値に集中し,活断層でより高い値で幅広い分布を示す.Al2O3とRbは2群の分布が重なるが,Al2O3は活断層でやや高く,Rbは非活断層で高い.このように,2 群の違いを表す元素はTiO2,Al2O3,CaO,P2O5,Rb,Baの6つであり,中でもTiO2とP2O5,Al2O3とRbの4元素はそれぞれの組合せも含め重要と考えられる.
より良い判別式についての考察:判別率100%となった①②のうち,最も元素の数が少ないのは②である.ただし,②は相関係数と分布パターンから共線性を持つと考えられるTiO2とP2O5を含んでいる.線形判別分析では一般に,共線性を持つ変数はどちらかを除くことが望ましいとされる.そこで,②からTiO2とP2O5をそれぞれ除いた元素の組合せを③④として線形判別分析を行った.その結果,いずれも判別率は99%となった.以上の結果から,活動性が既知の試料を判別する能力は②が最も高いが,未知の試料に対する判別性能の面では③あるいは④の方が高いことが予想される.
おわりに:立石ほか(2019)に続いて,試料数を増やし,より定量的な評価ができる変数選択法を取り入れて断層ガウジの化学組成を用いた線形判別分析を行った.その結果,活断層48試料と非活断層24試料の2群を化学組成から高確率で分ける判別式が複数得られ,その中から汎化性能が高いと予想される判別式を選び出すことができた.さらに,これらの判別式に共通する元素の組合せから,活断層と非活断層の違いを表す元素を6つに絞り込むとともに,うち4つの元素(TiO2とP2O5,Al2O3とRb)が2組のセットとなっていること,Al2O3とRb以外の4つの元素(TiO2,CaO,P2O5,Ba)が同じ分布パターンを示すことを明らかにした.これらの成果は,活断層と非活断層の化学組成の違いを生むメカニズムの解明に大きく貢献する.
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.
引用文献:Akaike, H., Proceedings of the 2nd International Symposium on Information Theory, Petrov, B. N., and Caski, F. (eds.), p. 267-281, 1973;立石ほか,日本地球惑星科学連合2019年大会,SSS15-P27,2019.
手法:本研究は,文献収集→断層岩の化学組成データの抽出→新たな化学分析データの追加→断層岩の化学組成データベースの作成→入力データの整理→変数選択→線形判別分析という流れで行った.文献収集は,国内の断層岩の化学組成データが記載されている論文を対象とした.この際,分析対象が活断層か非活断層か文献に明記されていること,多様な基盤岩を持つことを抽出条件とした.また,原子力機構保有の断層岩試料の化学分析を行い,両者を統合したデータベースを作成した.このデータベースには,各試料の試料名と分析値のほか,活動性に関する2つの分類を与えた.次に,このデータベースから断層ガウジのものを抽出し,できるだけ試料数が多くなるように元素を取捨選択した.これを入力データとして,判別に適した元素を抽出するため,赤池情報量基準(AIC:Akaike,1973)を用いて変数選択を行った.最後に,AICで選択された元素の組合せを説明変数として線形判別分析を行った.線形判別分析は,多次元における2群の中心点を基準として,2群が最も良く分かれる判別式を一次式として求める手法である.今回のように元素を説明変数とした場合,判別式の形はY=β1×SiO2+β2×TiO2+...-αという形をとる(αとβは判別係数).
結果:文献収集により,公表論文8編と原子力機構の報告書7編から断層岩の化学組成データを抽出した.これに原子力機構保有の断層岩36試料の化学分析結果を加えた総数276試料のデータベースから断層ガウジのデータを抽出し,説明変数の候補となる元素をSiO2,TiO2,Al2O3,Fe2O3*,MnO,MgO,CaO,Na2O,K2O,P2O5,Rb,Sr,Y,Ba,Thの15元素とした.試料の数は立石ほか(2019)から15試料追加され,活断層48試料,非活断層24試料の合計72試料となった.次いでAICを行った結果,Al2O3,CaO,Rb,Ba,TiO2,P2O5,MgO,Th,Y,Sr,MnOの11元素がp値に基づく重み順に説明変数の候補として選択された.これらの結果から,①AICで選択された11元素,②AICでp値が0から0.01の間となった8元素(Al2O3,CaO,Rb,Ba,TiO2,P2O5,MgO,Th),③AICでp値が0から0.001の間となった6元素(Al2O3,CaO,Rb,Ba,TiO2,P2O5)の組合せで線形判別分析を行った.その結果,活断層と非活断層の判別率は①②で100%,③で97%となった.
2群の違いを表す元素についての考察:①②③の線形判別分析の結果,いずれも高確率で活断層と非活断層の2群が分けられた.①②③で得られた判別式における各元素の係数を降順で並べると,各ケースで順位の違いはあるが,上位6位の元素(TiO2,Al2O3,CaO,P2O5,Rb,Ba),上位4位の元素(TiO2,Al2O3,P2O5,Rb)は共通であった.この中で,TiO2とP2O5,Al2O3とRbの組合せは2群と高い相関係数を示す.また,これらの元素の化学組成の分布パターンは3つに分けられ,TiO2,CaO,P2O5,Baは非活断層で低い値に集中し,活断層でより高い値で幅広い分布を示す.Al2O3とRbは2群の分布が重なるが,Al2O3は活断層でやや高く,Rbは非活断層で高い.このように,2 群の違いを表す元素はTiO2,Al2O3,CaO,P2O5,Rb,Baの6つであり,中でもTiO2とP2O5,Al2O3とRbの4元素はそれぞれの組合せも含め重要と考えられる.
より良い判別式についての考察:判別率100%となった①②のうち,最も元素の数が少ないのは②である.ただし,②は相関係数と分布パターンから共線性を持つと考えられるTiO2とP2O5を含んでいる.線形判別分析では一般に,共線性を持つ変数はどちらかを除くことが望ましいとされる.そこで,②からTiO2とP2O5をそれぞれ除いた元素の組合せを③④として線形判別分析を行った.その結果,いずれも判別率は99%となった.以上の結果から,活動性が既知の試料を判別する能力は②が最も高いが,未知の試料に対する判別性能の面では③あるいは④の方が高いことが予想される.
おわりに:立石ほか(2019)に続いて,試料数を増やし,より定量的な評価ができる変数選択法を取り入れて断層ガウジの化学組成を用いた線形判別分析を行った.その結果,活断層48試料と非活断層24試料の2群を化学組成から高確率で分ける判別式が複数得られ,その中から汎化性能が高いと予想される判別式を選び出すことができた.さらに,これらの判別式に共通する元素の組合せから,活断層と非活断層の違いを表す元素を6つに絞り込むとともに,うち4つの元素(TiO2とP2O5,Al2O3とRb)が2組のセットとなっていること,Al2O3とRb以外の4つの元素(TiO2,CaO,P2O5,Ba)が同じ分布パターンを示すことを明らかにした.これらの成果は,活断層と非活断層の化学組成の違いを生むメカニズムの解明に大きく貢献する.
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.
引用文献:Akaike, H., Proceedings of the 2nd International Symposium on Information Theory, Petrov, B. N., and Caski, F. (eds.), p. 267-281, 1973;立石ほか,日本地球惑星科学連合2019年大会,SSS15-P27,2019.