JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT50] 合成開口レーダーとその応用

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)

[STT50-08] スプリットスペクトル法に基づくアジマスピクセルオフセットに含まれる電離層ノイズの低減

*山下 達也1小林 知勝1森下 遊1 (1.国土地理院)

ピクセルオフセット(PO)法は、InSARでは検出が困難な地震や火山活動に伴う大規模な変動を計測できる強力な手法である。しかしながら、低周波数帯を利用するSAR衛星(例えばALOS-2)のデータは電離層の影響を強く受け、それによりピクセルオフセットのアジマス成分(衛星進行方向)にしばしば「アジマス縞」と呼ばれる周期的なノイズパターンが出現する場合がある。



最近10年間にわたって、アジマス方向のオフセットと電離層擾乱に伴う位相遅延の関係についての理論的研究が著しく進展した。さらにSAR干渉画像の電離層に起因する位相ノイズを取り除く手法として、スプリットスペクトル法が開発された。これら2つの理論を組み合わせることで、地表変位とアジマスピクセルオフセットの電離層ノイズを分離し、ノイズを低減することが可能となる。本発表では、ピクセルオフセットのアジマス成分に含まれるノイズ低減の手法を提案し、実データへの適用における検証結果を紹介する。



アジマス縞の低減手法の実装の概要は以下のとおりである。まずスプリットスペクトル法に基づき、電離層に起因する位相遅延量を推定する。第二に位相遅延量の2次曲面近似を推定し、位相遅延量から差し引く。ここで2次曲面の差をとることは、電離層に起因するアジマスシフトの一部が位置合わせによって打ち消されることに対応している。本研究では、位置合わせ手法としてアフィン変換を採用した。次にその残差に対してローパスフィルタとしてガウシアンフィルタをかける。ローパスフィルタをかける理由としては、高周波数ノイズが後段の位相遅延のアジマス勾配の評価に悪影響を及ぼす可能性があるためである。ここでアジマス縞の空間スケールよりも大きいガウシアンフィルタの標準偏差を与えると、電離層に起因する位相遅延量のシグナル成分を平滑化し過ぎて適切に評価できない可能性があることに注意する必要がある。続いて、位相遅延量と2次曲面の残差にフィルタをかけたものについて、アジマス方向の勾配を算出する。最後に算出した勾配を用いて補正量を評価し、これをアジマスオフセットから差し引く。



我々は、アジマス縞の低減手法の性能を評価することを目的として、アジマス縞の低減手法を電離層の影響を強く受けたALOS-2/PALSAR-2の2つの日本域のストリップマップデータペアに適用した。1つ目の事例は、変動がほとんど生じていない2015~2016年の北海道地方を対象とし、2つ目の事例は、熊本地震に伴う大規模な変動が発生している領域を対象とした。1つ目の事例では、補正前のアジマスオフセットの標準偏差は87.2cmであるのに対し、補正後の標準偏差は30.2cmとなり、アジマス縞は大きく低減された。この補正後の標準偏差が、理論上のアジマスオフセットの計測精度(~30cm)に匹敵する値であることは注目に値する。なお、位置合わせの手法として空間一様なシフトを試してみたものの、むしろ補正後の標準偏差は補正前よりも大きくなった。2つ目の事例では、顕著な地表変動が含まれることを考慮し、画像内のGNSS CORSでの変位から換算したアジマスオフセットと、PO法で得られたアジマスオフセットの残差とその標準偏差を調べた。補正前の最大残差は84.5 cmであるのに対し、補正後の最大残差は44.5 cmとなった。さらに補正前後での残差の標準偏差はそれぞれ22.7cm、14.9cmとなり、補正によりそのばらつきが小さくなった。以上の結果から、補正後の計測精度は、電離層の影響を受けていないデータの精度には劣るものの、補正したデータはピクセルオフセット法や有限矩形断層震源モデルによる3次元変位の導出において、補助的なデータとして十分有用であると期待される。