JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT50] 合成開口レーダーとその応用

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)

[STT50-09] SAR干渉法におけるスプリットスペクトラム法を利用した大規模地殻変動の検出

*小澤 拓1姫松 裕志1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:SAR干渉法、スプリットスペクトラム法、地殻変動

SAR干渉法は、地震や火山などに伴う地殻変動を検出する有用なツールの一つとして用いられているが、大規模な地殻変動が生じた場合には、干渉が得られているにも関わらず、位相アンラッピングの困難により、地殻変動量に変換できない場合がある。例えば、2016年4月16日に熊本県で発生したMJMA7.3の地震においては、PALSAR-2を用いたSAR干渉法により断層近傍でも明瞭な干渉縞が得られているが(e.g., Ozawa et al., 2016)、πラジアンを超える位相差ギャップが多く生じたため、地殻変動量への変換は困難であった。本発表においては、スプリットスペクトラム法を用いて、そのような領域の地殻変動を求める手法について述べる。
 一般に、InSAR解析によって得られる干渉画像の位相差Φtotal(f)は、

  Φtotal(f) = 4π Δρnon-disp f/c + 4π K ΔTEC/cf + cnst

と表される。Δρnon-dispはスラントレンジ変化成分であり、地殻変動、軌道縞、大気遅延等によって生じる(右辺第1項:非分散性成分)。ΔTECはレーダー波伝搬経路上の総電子数の変化である(右辺第2項:分散性成分)。fはレーダー波の周波数で、cは光速、K, cnstは定数である。分散性成分と非分散性成分は、SARが照射するレーダー波の帯域を2分割し、その周波数差に対する応答の違いに基づくスプリットスペクトル法を用いることによって、分離することが可能である(e.g., Rosen et al., 2010; Gomba et al., 2016; Wegmüller et al.,2018)。分散性成分を除去した後、2つの帯域の干渉画像の位相差Φdiff

  Φdiff = 4π Δρnon-disp (fhigh – flow)/c + cnst

となり、これは周波数がfhigh – flowのレーダー波で計測した場合の位相差に等しい。たとえば、PALSAR-2のSM1モードの80MHzの帯域を40MHzの2つの帯域に分割し、その中心を中心周波数として処理した場合には、40MHzの周波数(波長に換算すると7.5m)で計測した場合の干渉画像が得られる。この場合、大きな地殻変動が生じていた場合でも位相変化は小さいため、ほとんどのピクセルにおける位相差は-πから+πの範囲に収まる。よって、unwrapping処理を適用することなく、スラントレンジ変化量を求めることができる。
 この方法を2016年熊本県地震に関するPALSAR-2のSM1モードの干渉画像に適用したところ、この手法を用いてもπラジアンを超える位相変化が求まったが、80MHzの帯域を3分割し、帯域間で位相変化量をつなぎ合わせる方法を適用したところ、unwrapping処理を適用することなく、スラントレンジ変化量を求めることができた。オフセットトラッキング法による結果と比較したところ、おおよそ同じスラントレンジ変化分布が求まり、さらに、オフセットトラッキング法では、相関窓の大きさだけ分解能が劣化するのに対して、より高い空間分解能でスラントレンジ変化量を求めることができた。本手法は干渉性劣化によるノイズは増幅されるため、その適用は干渉性が高いデータペアに限られるが、条件がよければ、大きな地殻変動が生じていた場合でも、精度の良く地殻変動分布を求められる可能性がある。