JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT50] 合成開口レーダーとその応用

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)

[STT50-P10] 火山観測用可搬型レーダー干渉計の開発

小澤 拓1、*姫松 裕志1 (1.防災科学技術研究所)

近年の衛星SARの高機能化、SAR解析手法の高精度化は、火山活動に伴う地殻変動を面的詳細かつ高精度に捉えられるようにした。これにより、衛星SARは火山活動の評価やメカニズムの研究における有用なツールとして用いられるようになったが、衛星SARの観測頻度は衛星の回帰周期に制限されるため、1日程度の短時間で分布が大きく変化するような地殻変動の推移を捉えることは困難という問題が残されている。そこで、我々は、次世代火山研究推進事業の課題Bサブテーマ2において、地上からレーダー波を照射して、高頻度に面的詳細な地殻変動を計測する火山観測用の“可搬型レーダー干渉計”の開発を進めている。本センサーでは、機動的に再設置を繰り返して、広範囲を1日程度の頻度で観測できるようにしたい。そのためには、植生等によるコヒーレンスの低下が生じにくいシステムである必要があるため、本センサーでは、植生に対する透過性の高いL-bandのレーダー波を採用することとし、その実験機を作製した。その実験機を浅間山山麓に1時間程度固定して行った計測実験においては、高い干渉性が得られることが確かめられ、さらに大気遅延と考えられる位相変化が捉えられた(小澤・姫松、2019)。

本システムにおいては、再設置を繰り返して観測する必要があるため、そのリピートパス観測の適用性能を確かめる必要がある。そこで、実験機を用いた計測実験を2019年10月16日と10月17日に、筑波山南西麓において実施した。筑波山山頂までの斜距離は約4kmである。本実験においては、レールを桜川北条堰付近の川辺のコンクリート部に設置し、地上設置方式による観測を行った。観測終了後にはレールを撤収し、再観測時には、レール設置位置がおおよそ同じ位置になるように、目視で調整した。アンテナ位置は、レールから数10m離れた場所に三脚で設置したGNSSを基準として、レーダーアンテナ搭載部に付属するGNSSのキネマティック測位によって決定した。SAR処理においては、その位置情報を用いて補正し、すべて同じ位置で観測した場合と同様のSLC画像を作成した。得られた強度画像においては、センサーアンテナ設置場所近傍の樹木の影になる領域を除いて、強い後方散乱が見られた。観測間隔が1日のデータペアに干渉法を適用したところ、強い散乱強度が得られた領域においては、高い干渉度が得られた。山頂部では半サイクル程度の位相変化が見られ、これは大気遅延成分である可能性が考えられる。この結果から、火山観測用可搬型レーダー干渉計によるリピートパス観測は成功裏に適用可能であることが確認された。さらに、干渉性の持続性について調査するため、筑波山での計測実験を約1カ月毎に行った。観測間隔が1カ月のデータペアの解析結果においては、比較的高い干渉性が得られたが、観測間隔が2カ月のデータペアの解析結果においては、干渉性劣化が顕著になり、観測間隔が3カ月のデータペアの解析結果において干渉性が得られた領域は、比較的植生が薄い山頂付近のみであった。以上のことから、現時点の実験機における干渉性の持続性は2カ月程度と言える。筑波山は比較的濃い植生に覆われており、その影響が大きいと考えられるが、火山観測のためには、干渉性の持続性の改善が望ましい。現在の実験機から得られるSAR画像にはノイズが重畳する場合があり、それらが干渉性の持続性を低下させている可能性も考えられる。現在、この問題を解決するため、ハードウェア、ソフトウェアの改良を進めており、今後、これらの改良によって、干渉性の持続性の改善が得られるかどうかを調査する予定である。