JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC42] 火山噴火のダイナミクスと素過程

コンビーナ:並木 敦子(広島大学 総合科学研究科 環境自然科学講座)、Christian Huber(Brown University)、Michael Manga(University of California Berkeley)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)

[SVC42-P09] 桜島火山での噴煙成長過程定量化の試み

*山田 大志1井口 正人1藤田 英輔2 (1.京都大学防災研究所 火山活動研究センター、2.国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

キーワード:噴煙、噴火過程、桜島火山

火山噴火に伴う噴煙は、噴出の様相に応じて振る舞いが大きく変化する。 継続的な火山灰放出に伴う噴煙柱は定常流として扱われるのが多いのに対し(例えば,Woods,1988)噴煙の成長段階は火口から噴出した噴煙が大気を取り込みながら上昇する過程であり,その様相は時空間的に変化することが想定される (例えば,Woods and Kienle 1994)。桜島でのブルカノ式噴火に伴う噴煙運動を調べた石原・他(1983)は,噴出直後の噴煙は標高の-3乗に比例する上昇速度で上昇し,ある標高に達した段階でその上昇速度は一定の値に収束することを報告している.こうした特徴は,噴出直後の噴煙は噴出の運動量で駆動され(運動量フェーズ),その後に周辺大気を取り込むことで獲得する浮力へと駆動力が変化(浮力フェーズ)する過程を反映していると解釈されている(Partick, 2007) .
噴煙の成長段階とは,同時に多くの変動が観測される段階でもある.桜島における観測研究を例に挙げると,火口域から水平距離で約2 km離れた有村観測坑道においては,噴出の直後は火口から深さ数キロ程度の領域における収縮を反映する火口方向の伸長がひずみ計で記録される(井口, 2009).噴火の開始に伴う爆発地震の発震機構解析では,地震波の励起源が深さ数キロから火口直下へと進展する過程が明らかにされている(Tameguri et al., 2002).空気振動(空振)記録の解析では,噴煙の成長に同期する圧力変動が観測される場合もある(Yamada et al., 2017).しかし,こうした観測量と同時に進行している噴煙の成長過程との関連を明らかにした例は少ない.本研究の目的は,噴煙の成長過程と同時に記録される観測量の関係を明らかにし,観測量か ら成長過程の噴煙運動を推定することである.本発表では,可視画像記録によって捉えられている桜島火山での噴煙の成長過程の特徴を紹介し,噴煙成長との関連が示唆される地盤変動,地震,空振の各観測記録の特徴を紹介する.
我々は,桜島の南岳火口から東側に水平距離約5 kmに位置する黒神観測室で可視画像観測を2018年10月から実施している。カメラは1920×900ピクセルの分解能を有するDFKZ12GX236 (TheImagingSource社製)を用い,撮影間隔を4fpsに設定している.撮影された可視画像上のピクセル位置情報は,寺田・他(2003)の手法を用いて南岳火口上を通る二次元鉛直断面上の位置に投影される.この換算に従うと,記録される可視画像記録は南岳の火口上約2500 mま でを画角に収めるていることに相当する.黒神観測室からの視野で捉えることができるのは南岳火口縁から上のみであり,例えば2018年10月の南岳火口底は黒神観測室から見えている南東火口縁から深さ約250 mに位置することが報告されている(大隅河川国道事務所, 2018).
噴煙運動の基本的性質を確認する予備的な解析として,記録されている噴煙最頂部の鉛直方向の上昇速度を,2018年10月23日以降に記録された12のイベントを対象に調べた.すべてのイベントが南岳B火口からの噴出である.大半の10イベントでは,噴煙は火口縁から5‒20 m/s程度の等速で出現するのに対し,2イベントでは50‒100 m/sのより高速で噴出し,20秒程度かけて減速しながら等速運動(20‒40 m/s)に遷移するという特徴が見られる.同時に記録されている火口方向のひずみ変化量と上下動短周期地震記録,ハルタ山観測室で観測される空振記録の各振幅の最大値を調べると,高速で出現する2イベント(65‒122 nano strain, 71‒84 μm/s, 57.8‒72.2 Pa)の方が,等速で出現する10イベント(38‒63 nano strain, 0.3‒86 μm/s, < 48.9 Pa)に比べると大きい傾向がある.時間関数に着目すると,最も高速で噴出する2018年12月24日 のイベントの例を参照すると,火口方向ひずみ変化と空振の励起源解析(例えば,Oshima and Maekawa, 2000)で推定される体積変化率は,上昇速度の変化とよく対応する時間関数を有している.こうした観測量の特徴は,観測量の励起と噴煙の運動量フェーズの間の深い関連を示唆するものである.より解析や考察を進めることで,運動量フェーズの噴煙運動を観測量で推定できる可能性があり,そのために可視画像解析の解析数を増やす必要がある.
謝辞:有村観測坑道の観測データは国土交通省九州地方整備局大隅河川国道事務所からご提供頂きました.