JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 火山の熱水系

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC44-01] 十勝岳のベンガラ温泉における火山性温泉水の高頻度サンプリング

*大野 鷹士1森 俊哉1高橋 良2 (1.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、2.北海道立総合研究機構地質研究所)

キーワード:火山性温泉水、高頻度サンプリング、自動サンプリング、XYプロッター、十勝岳

火山性温泉水の化学組成における時間変化は火山活動モニタリングのための優れた指標である。これまでに、温泉水試料の長期的な繰り返しサンプリングとその後の化学分析によって、火山活動に対応する変化が定性的に捉えられてきた(e.g., Fischer et al., 1997; Martin-Del Pozzo et al., 2002; Sano et al., 2015; Takahashi et al., 2015, 2019)。しかしながら、火山活動の定量的な追跡を可能にするには、より高頻度でサンプリングを行うことが必要である。高いサンプリングレートを実現するために、Ono et al. (2020)はXYプロッターをベースとした火山性温泉水の野外自動サンプリング装置(GOFAT)を開発した。Ono et al. (2020)はGOFATを使用した高頻度サンプリングにより、箱根山から湧出する温泉において、降雨に伴う短期的な正のSO4ピークを捉えるとともに、火山活動の静穏期であっても高頻度サンプリングが重要であることを示唆した。

十勝岳は北海道の中央部に位置する活火山であり、主要な温泉地域である吹上温泉と十勝岳温泉がそれぞれ西麓と南西麓に位置している。1986年以降の温泉水の長期的な地球化学的データに基づいて、Takahashi et al. (2015, 2019)は火山活動の活発化に伴い、吹上温泉地域の温泉水に高温(約280°C)・高Cl濃度(約20,000 mg/L)を有するNaCl型マグマ性流体が供給されたことを明らかにした。さらに、Takahashi et al. (2019)は2009年以降のCl濃度変化と地震活動との良好な相関関係から、十勝岳周辺で発生する火山性地震の一部がNaCl型マグマ性流体の移動と関連していることを指摘した。

本研究では、吹上温泉地域に属するベンガラ温泉から湧出する火山性温泉水の化学組成の変化を詳細に追跡するために、2019年7月12日からGOFATを用いた自動サンプリングを開始した。温泉水試料は2019年10月17日から11月11日までの3時間間隔でのサンプリングを除き、12時間ごとに採取した。
ベンガラ温泉での高頻度サンプリングにより、火山性地震の回数が一時的に増加した2019年10月末から11月頭にかけて温泉水中の主要陽イオン・陰イオン濃度の増加を捉えた。さらに、同時期に観測されたCl/SO4モル比の下げ止まりは、NaCl型マグマ性流体の温泉水中への流入量が、火山性地震の発生とともに一時的に増加した可能性を示唆している。