JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 火山の熱水系

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC44-02] 十勝岳の噴気活動の地球化学調査から推定される火山ガス供給過程

*篠原 宏志1風早 竜之介1森田 雅明1関 香織1 (1.産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

キーワード:火山ガス、噴気ガス、十勝岳

十勝岳は継続的な火山ガス放出活動を行なっており、気象庁の観測では1962年の噴火で生じた62−2火口上の噴気は噴火以降現在まで最高高度500mを超える活動を継続している(気象庁、2019)。現在活発な噴気地帯は、62-2火口、大正火口、振子沢であるが、それぞれ異なった変遷をたどっている。我々は2003年から繰り返しこれらの噴気地帯において、火山ガス組成および放出率の観測を実施してきたのでその結果および十勝岳における火山ガス供給系に関する検討結果を紹介する。

十勝岳は地形的な制約によりSO2放出率の測定が困難であり、測定例は限られるが2003年には210t/d(Mori et al., 2006)、2014-2015年には400-500t/dの大きな放出量が得られており、日本では浅間山に次ぐ、継続的噴煙活動を行う火山である。噴気温度は62-2火口では2000年前後に約500度に増加したのちに数年で200度以下に減少した。それに対し62-2火口の火山ガス中のSO2+3H=HS+2H2Oの反応の見かけの平衡温度は、概ね300-400度で大きな変化は見られない。大正火口では2000年前後の200度から現在の300度前後までゆっくりと温度が増加している。大正火口の火山ガスの見かけの平衡温度は300度前後から330前後へと増加傾向にあるが、62-2火口噴気より低い温度を示す。振子沢での噴気活動は、1988年噴火の前後に活発化した後は最近まで非常に低調であったが、2015年ごろからの活発化し(気象庁、2019)、2019年には420度の噴気が確認されている。2019年に採取された火山ガスは水素に富み、見かけの平衡温度は560度と高い値を示している。
 噴気ガスの化学組成は、低温の噴気を除いていずれも硫黄濃度が1-6 mol %と大きいことが十勝岳の特徴である。しかし、噴気毎および時期により組成に差が見られる。例えばH2O/Sモル比は、大正火口噴気では2008-2019年には50前後でほぼ一定であるのに対し、62-2火口噴気では2008年の50前後から2016年には20前後に低下している。また、2019年に観測された振子沢の高温噴気でのH2O/Sモル比は16であり、62-2火口噴気の最近の値と類似している。化学組成の比較では、62-2火口噴気温度が低下傾向にあるにも関わらず、最近の組成が振子沢の高温噴気組成に類似していること、および大正火口噴気に対する最近の62-2火口噴気と振子沢噴気の類似性が見られる。H2Oの水素・酸素同位体比の変化においても同様の特徴は見られる。これらの化学組成・同位体比組成の特徴に基づき、十勝岳における火山ガス供給系について考察する予定である。