JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 火山の熱水系

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC44-05] 大分県八丁原地熱帯における酸性熱水噴出坑井の地質学的・地球化学的特徴

*堤 彩紀1清田 由美1松田 鉱二1副田 宜男1大嶋 将吾1田口 幸洋2塚田 康元3 (1.西日本技術開発株式会社、2.福岡大学、3.独立法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

キーワード:八丁原地熱帯、酸性熱水、熱水変質鉱物

八丁原地熱帯は大分県玖珠郡九重町に位置する。本地域では昭和53年より九州電力株式会社によって八丁原地熱発電所が建設され現在も安定して稼働中である。八丁原地熱発電所の開発エリアのうち、北部を還元エリア、南部~東部を生産エリアとして貯留層の運用を行っている。八丁原地熱発電所では、天水を起源としたCl型の中性の地熱流体が北西―南東系及び北東―南西系の断層に沿った高透水性ゾーンに貯留されており、貯留層温度は約240~300℃とされている(Momita et al., 2000)。
八丁原地熱地域で掘削された生産井のうち、生産エリアに掘削された坑井で酸性熱水(pH<4)の噴出が報告されている(島田ほか,1983、Matsuda et al., 2000など)。地熱発電所の酸性熱水の噴出はケーシングの腐食や地上設備の腐食を引き起こすため、地熱発電所運営の大きな問題のひとつとなっている。酸性熱水の賦存状況の正確な把握や酸性熱水の流動過程を理解することは、酸性熱水の噴出に係る様々なリスク回避に寄与できるため、地熱資源開発においても、また、安定した地熱発電所の運用や地熱資源開発において極めて重要である。本研究は八丁原地熱帯の酸性熱水噴出坑井の地質学的特徴及び地化学的特徴から、八丁原地熱帯の酸性熱水の分布状況、酸性熱水の成因及び酸性流体の流動過程を把握することを目的としている。
八丁原地熱帯では、明礬石、カオリナイト及びパイロフィライト等酸性熱水で形成される熱水変質鉱物が、標高1,000m~500m付近の比較的浅部に広範囲に分布していることが報告されており、酸性熱水は比較的浅部に賦存していることが示唆される(Taguchi,1991)。八丁原地熱地域の浅部における酸性変質鉱物の分布や酸性熱水の成因についての報告例はあるものの、酸性熱水噴出坑井のフィードポイントが位置する深部(標高0m~-800m付近)の岩石学的特徴及び酸性変質鉱物の分布状況についての研究事例が少なく、酸性熱水が噴出するメカニズムについては不明な点がある。本研究では近年掘削された数本の坑井を対象に、酸性熱水噴出坑井と中性~弱アルカリ性熱水噴出坑井の岩石学的特徴及び変質鉱物の出現を検討した。検討では、坑井より採取されたカッティングス試料を用いXRD分析法及び岩石薄片観察を行った。XRD分析の全岩分析を行った結果、以下のことが明らかとなった。1)酸性変質鉱物は標高1,200m~400m付近に分布し、鉱物種として明礬石、カオリナイト、ディッカイト及びパイロフィライトが確認された。2)酸性変質鉱物が確認された深度より深部では混合層鉱物、イライト及び緑泥石が連続的に確認された。3)酸性熱水噴出坑井のフィードポイント周辺では酸性変質鉱物は確認されていない。
XRD分析の全岩分析においては、フィードポイントが存在するような、比較的深部に酸性変質鉱物の存在は確認されず、酸性熱水噴出坑井及び中性~弱アルカリ性流体噴出坑井間で、産出する変質鉱物の出現深度や鉱物組合せに大きな違いは認められなかった。発表ではXRD分析法のうち定方位分析及び岩石薄片観察結果を加え、各坑井の岩石学的特徴及び変質鉱物種の出現について、詳細な検討結果を報告するとともに酸性熱水の賦存状況、成因及び流動過程についての考察も報告する。
謝辞:本研究はJOGMEC事業「酸性地熱流体発生機構解明技術」の中で行われたものである。また、九州電力㈱殿には坑井に係るデータの提供及び坑井地質試料の提供等、データの公表など多大なご協力を頂いた。記して謝意を表します。