JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 火山の熱水系

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC44-09] 比抵抗を基とした葛根田地熱地域における空隙率・塩濃度分布のベイズ推定

*鶴木 智1石塚 師也1林 為人1山谷 祐介2梶原 竜哉3杉本 健3齋藤 遼一3 (1.京都大学、2.産業技術総合研究所、3.地熱エンジニアリング株式会社)

キーワード:ベイズ推定

超臨界地熱資源は, 発電に利用する場合, 従来の地熱発電の数十倍の出力があると考えられ, 資源としての有用性が期待されている。しかし, 超臨界条件を満たす場所は地下深部であるため, 岩石の空隙率や間隙水の塩濃度の分布について実測で得ることは困難である。したがって, これらの物性値を知るには, 先行研究などから得られる既知情報を適切に考慮して推定を行う必要がある。このような課題に対して, ベイズ推定は, 事前分布 (データが得られていないときの物性値が取り得る確率分布) として, 種々の確率分布を用いて既知情報を表現可能であることから有効な手法であると考えられる。そこで本研究では, ベイズ推定を用いて,既存坑井で500 ℃以上の温度が観測されている岩手県葛根田地熱地域を対象とし, 広域的に得られている比抵抗データと先行研究から考えられる温度分布を基に, ベイズモデルを用いて空隙率と塩濃度分布の推定を行い, ベイズ推定の有用性と特徴を検証した。
 地殻流体や岩石の比抵抗には,温度や塩濃度,空隙率が影響を与える。そのため,本研究では,先行研究を基に以下のモデルを導入した。まず,温度は, 本地域のWD-1a井および東北自然エネルギー (株) から提供された坑井温度検層データをふまえて,熱対流域から熱伝導域に遷移する値を用いた。次に,塩濃度については, 先行研究から, 貯留層の流体が天水由来, 貯留層より深い位置の花崗岩域の流体はマグマ由来であることが考えられ, また天水の影響が深部の岩石き裂密度の低下とともに弱まると考えられるので, 浅部の低塩濃度域からある深度を境に塩濃度が線形に増加するモデルを用いた。空隙率については, 深度方向に移動平均モデルを仮定した。以上の塩濃度および空隙率のモデルに含まれる変数が取り得る値の範囲を事前情報として組み込み, Glover et al. (2000)で提案されている修正Archie式によって各変数と比抵抗を関係づけることで,ベイズモデルとした。

まず,上記のベイズモデルの精度検証を行うため,理論的に得られる比抵抗データを人工データAとして作成した。人工データの解析結果から, 塩濃度, 空隙率ともに推定結果は仮定したデータと整合的な値を示した。また, 塩濃度と空隙率の推定結果から,修正Archie式を用いて比抵抗データBを算出したが, 人工データAとの誤差は最大でも0.29% となった。したがって, 作成したベイズモデルは妥当であると考えられる。次に, 作成したベイズモデルをマグネトテルリク法で得られた比抵抗に適用し, 空隙率と塩濃度の推定を行った。推定された塩濃度は, 解析範囲中央部は勾配が大きく,その周囲よりも高い値を示し,天水の影響が小さくなっていると考えられる。さらに,空隙率分布も同様の領域で,その周辺よりも高い値を示していることが分かった。以上から,解析範囲中央部に高塩濃度の流体が空隙にある可能性をベイズ推定を行うことにより指摘することができたと考えている。

謝辞: 葛根田地域のデータの多くは東北自然エネルギー株式会社よりご提供頂きました。