JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 火山の熱水系

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC44-12] 九重火山地域の熱水系/熱構造数値モデル

*藤光 康宏1西島 潤1 (1.九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)

キーワード:九重火山、熱水系、熱構造、数値モデリング

九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門地球熱システム学研究室は、前身の工学部資源工学科地熱工学講座時代の1970年代から、将来の火山エネルギー利用のための研究フィールドとして、大分県の九重火山の熱水系の調査を続けている。そして、1980年代後半からは、得られた知見を統合的に説明するために、それぞれの段階で熱水系や熱構造の数値モデルを構築している。九重火山の数値モデリングを開始した初期の段階から、既に九重火山全体の熱構造モデルと現在も噴気活動が見られる九重硫黄山周辺の熱水系のモデルの2種類の構築が試みられ、その方針は現在まで受け継がれている。
1980年代、前者については、九重硫黄山を通る南北50 kmの垂直断面の2次元熱伝導モデルを構築し、九重火山地域内の5本の坑井で決定されたそれぞれの地殻熱流量の値が、5万年前に定置されたマグマの冷却を考慮した非定常モデルで説明できることを示した。後者については、九重硫黄山を中心とした直径5 km、地表下2 kmの円筒座標系による熱水流動モデルを構築し、その温度・圧力分布から、1986年に実施した九重硫黄山の噴気地域での微小地震集中観測の結果その存在が明らかになった震源の集中域(噴気地域直下の直径約500 m、深度約2 kmまでの円筒形の範囲)が、気液二相の火山熱貯留層であるという結論を導いた。これらの数値モデリングでは、2次元熱伝導モデルにはFINITEG(Lee et al., 1980)が、円筒座標系熱水流動モデルにはSHAFT79(Pruess and Schroder, 1980)が使用された。
九重火山の1995年水蒸気噴火の際には、当研究室を含む多くの機関により様々な観測が実施された。そして、噴火前から噴火、そして沈静化に至る活動シナリオに沿った各ステージの概念モデルを元に、九重硫黄山を中心とした東西、南北各5.1 km、地表から標高-500 mまでの範囲の3次元熱水流動モデルにより、観測された噴気放熱量の経時変化、及び地磁気の経時変化から推定された山体の温度低下を説明することが試みられ、ほぼこれらを説明できる数値モデルが得られた。現在はさらに重力変動観測の結果を説明するための数値モデルの構築を進めている。これに加えて、九重に存在する複数の地熱発電所地域や温泉地域を含む九重火山全体の熱水系を統一的に説明するために、九重火山地域の広領域地熱システムの数値モデリングも進めている。いくつかの地熱発電所地域を含んだ九重火山の熱水系の発達を、北西-南東49 km、北東-南西39 km、地表から標高-10 kmまでの範囲の3次元熱水流動モデルによる数値シミュレーションで描き出すことを試みている。これらの数値モデリングでは、HYDROTHERM Version 2.2(Hayba and Ingebritsen, 1994)及びVersion 3.2(Kipp Jr. et al., 2008)が使用されている。