JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 火山の熱水系

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC44-P02] 草津白根火山・湯釜火口湖水の不均質性から推定される湖底熱水の化学的特徴

*鈴木 レオナ1寺田 暁彦1谷口 無我2髙橋 昌孝1大場 武3 (1.東京工業大学、2.気象庁気象研究所、3.東海大学理学部化学科)

キーワード:ドローン、無人航空機システム、草津白根火山、火口湖、水安定同位体比、火山監視

1.はじめに
 草津白根火山は湯釜と呼ばれる強酸性の山頂火口湖を有する活火山で,2018年には湯釜南方の本白根山で水蒸気噴火が発生するなど活発な活動が継続している.湯釜湖底からは,噴火に関係する熱水だまりから温泉や火山ガスが湧出している.そのため,過去50年にわたり湯釜湖水が採取・分析され,水蒸気噴火発生場の物理・化学状態の検討が試みられてきた.現在,採水作業は湖岸の定点(U1と呼ぶ)に人が出向いて行っているが,U1試料と湖底湧出流体の関係はよく分かっていない.U1試料が何を代表しているのか明らかにするとともに,より信頼性の高い活動評価を実現するために,本研究では湖底湧出流体の直接採取を試みた.

2.方法
 湖底熱水湧出孔は湯釜の水深30 m前後にあり,特に活発期では湖底湧出流体の人力での採取は非常に難しい.そこで,ウインチと赤外線カメラを搭載した産業用ドローンに採水器および強酸性対策を施した圧力計,水温計を吊り下げ,火口から離れた安全な場所から遠隔にて湖底湧出流体の採取を試みた.作業は2019年8月から概ね1か月おきに合計4回実施した.ドローンを操作することで様々な場所・深度から採水し,得られた16個の試料の溶存化学成分および水安定同位体比を分析した.同時に採水したU1試料も同様に分析し,ドローン採取試料(D試料と呼ぶ)と比較した.
 
3.湖水の温度不均質
 湖面変色やドローンに搭載した赤外線カメラ映像により,大まかな湖底熱水湧出口の場所を推定した.湯釜湖底には溶融硫黄が存在することから,湖底噴出流体の温度は 100 ℃以上あると考えられる.深さ別に実施した水温測定によれば,そのような高温は湖底付近においても測定されなかった.その一方で,湖面付近では周辺よりも1-2 ℃高い水温が繰り返し観測された.夜間空中赤外観測によれば,湧出口付近から湖岸へ向かって湖面水温が緩やかに低下する.すなわち,湖底噴出した熱水が周辺湖水と混合しながら湖面まで上昇した後,湖面付近において水平方向へ広がることで数mの厚みを有する温水層が形成されていると思われる.

4.湖水の成分濃度不均質
 このような表面温水層などから得られた湖水試料の化学組成を検討する.各調査日において,D試料の水安定同位体比はU1とは有意に異なることがあった.同位体組成比の傾きは約4.8で,これは湖水面における動的同位体分別効果の進行を示唆する.台風1919号による大量降水の影響を考慮すると,湖底湧出流体の水素と酸素の安定同位体比は,それぞれ -46.5 ~ -49.7 ‰,および -3.2 ~ -3.9 ‰ 前後と推定できた.また,各調査日についてSO4/Cl比を検討すると,D試料はU1試料よりも高いことがあった.SO4/Cl比は長期的に上昇しており,この変化がD試料において先行して検出できたと考えられる.


5.議論
 湖岸のU1で得られる試料は,湖底からの湧出流体が同位体分別や希釈など様々な過程を経験した結果である.湯釜を模した数値計算によれば,湖底湧出流体とU1の同位体比の差は,水素,酸素について3 ‰ および 0.5 ‰ 程度と予測されており,本研究で直接採取により推定される関係に矛盾しない.湖水体積の大きな湯釜では,湖底噴出流体の変化がU1において顕著に検出されるまでに1年以上かかることが数値計算から示唆されている.すなわち,湖底熱水活動の変化をより感度よく検出するために,ドローンを用いた湖底熱水湧出口付近からの採水は有効である.