JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 火山の熱水系

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC44-P07] 地熱発電所送水パイプ中のシリカスケールの地球化学的特徴

*陳 飛揚1福山 繭子1 (1.秋田大学大学院)

キーワード:地熱、シリカスケール、微量元素

熱水卓越型の地熱発電所においてスケールの沈殿は、地熱エネルギーの生産率に影響を与える。スケールは、地熱発電所におけるそれぞれの物理化学条件の結果として沈殿するため、異なる物理化学条件でのスケールの化学的特徴とその熱水からの沈殿過程を理解することは、新たなスケール対策を検討するために必要である。一方、地下からの熱水による金属の移動・固定のプロセスへの理解は、熱水鉱床の形成過程を理解する上で重要な情報となる。そこで、本研究では、秋田県に位置する大沼地熱発電所を対象とし、熱水及びスケールの化学的特徴とスケール中の微量元素の濃集メカニズムを解明することを目的とする。
 大沼地熱発電所の生産井のパイプからスケール試料を、生産井から熱水試料の採取を行った。採取した試料は、秋田県産業技術センターのイオンクロマトグラフィー(Thermo Fisher Scientific Dionex ICS-2100およびICS-3000)で熱水の主成分分析を行い、秋田大学のQ-ICP-MS(Agilent 7700)で熱水及びスケールの微量成分分析を行った。
 スケールは、主にアモルファスシリカで構成され、微量のモンモリロナイト±カオリナイト±黄鉄鉱を含む。熱水の陰イオンタイプはCl型であった。
 化学分析の結果、スケールには、Na(0.63-1.32%)、Ca(0.76-1.39%)、Mg(107-7417μg/ g)、Fe(0.03-1.44%)、Al(3.6-5.4%)および微量のCu( 2-53μg/ g)、Zn(3-180μg/ g)、Li(2-11μg/ g)、Rb(135-183μg/ g)、Sr(173-378μg)やREE(Rare Earth Elements)といった親石元素が含有される。コンドライトで規格化したシリカスケールのREEパターンは、Euの正異常を示し、わずかにLREE(Light Rare Earth Elements)に富むパターンまたはHREE(Heavy Rare Earth Elements)に富むパターンを示す。イットリウムは、HREE、特にHoと同様のイオン半径を持っているため、似たような挙動を示し、本研究でもYとHoは正の相関を示す。Y / Ho比31.2〜50.2であり、McLennan(2001)によって推定された上部大陸地殻のY / Ho値(27.5)より高く、流体—岩石反応の間にYとHoの分別が生じた可能性がある。また、シリカスケール中の金含有量は1.5-23.3μg/ gであり、金鉱石の金含有量の平均値である数μg/ gと比べ、高い。金濃度は、Ag及びPbと正の相関を示す。また、スケール中のAu、Cu、Pb、およびLi濃度は、Eu異常との負の相関がある。また、微量元素総量は、Na、Ca及びAl濃度と正の相関があり、モンモリロナイトやカオリナイトにその多くが含有されていると考えられ、粘土鉱物が熱水中の微量元素を除去することを示している。

謝辞:大沼地熱発電所のシリカスケール及び地熱水の試料採取にあたり、三菱マテリアル株式会社および秋田発電株式会社の皆様には多大なるご協力を頂きました。また、秋田産業技術センターの遠田幸生博士にはイオンクロマトグラフィー分析にご協力・ご指導を頂きました。ここに記し厚く御礼申し上げます。本研究の一部は、JSPS科研費(19K04008)の助成を受けたものです。