[SVC45-13] 草津白根火山西方における温泉湧出と2018年群発地震
キーワード:温泉、化石海水、草津白根火山、高山村、熱水系
1.はじめに
草津白根火山では,強酸性の湯釜火口湖を有する白根火砕丘直下で微小地震が2014年頃から多発するようになり,さらに地表面から深さ1000m付近の増圧を示す地殻変動が2014年から断続的に観測されている.これらの活動は,湯釜周辺の火山ガスや湯釜火口湖の成分濃度比の変化や,火口湖水温上昇などを伴ったことから,高温流体の浅部への上昇が関係していると考えられる.一方で,草津白根山西方のより深部を圧力源とする地殻変動がGNSS観測から示唆されている.この領域では2018年9月下旬から同12月にかけて地鳴りを伴う群発地震が発生した.草津白根火山のマグマ・熱水供給系をより広い領域から再検討する目的で,2018年10月に同火山西方の4か所に地震計を,2か所に空振計を設置したほか,同地域に分布する温泉群について一斉採取を繰り返し行った.その化学組成と地震活動に基づき,草津白根火山のマグマ・熱水系を検討した.
2.地震活動
草津白根山西方(長野県高山村付近)では,2018年9月から12月にかけて地鳴りを伴う活発な地震活動が発生した.聞き取り調査の結果,地鳴りは同村内松川渓谷沿いでよく聞こえ,さらに北方に位置する同山之内町でも広く感じられた.一方で,松川渓谷からやや離れた同役場付近,松川渓谷上流の七味温泉,志賀高原において地鳴りの報告は少なかった.
同年10月以降に設置した4か所の臨時観測点,防災科学技術研究所・中野観測点,および東京工業大学草津白根火山観測所既設の地震計をあわせて震源決定を行った結果,群発地震は高山村三沢山周辺(草津白根火山湯釜火口湖から西方12km),海抜下4 km付近の狭い範囲で繰り返し発生していることが分かった.また,さらに西方の須坂市にも2か所にも震源域が認められた.解析期間を通じて震源域の移動は認められなかった.
松川渓谷において地鳴りを聴いた時刻に対応する地震・空振波形を検討すると,地鳴りに対応すると考えられる空気振動は,その場で地震動により励起されていることが分かる.地鳴りを起こす地震の震源域は,三沢山および須坂市の震源域の両方であった.少数であるが,志賀高原付近でおきる微小地震も松川渓谷において地鳴りを起こしていた.
3.草津白根山西方温泉の起源
群発地震が発生した2018年10月から2019年にかけて,高山村内の各温泉水を採取した.時間変動を検討するため,主要源泉については2018年12月,2019年4月,同9月,および同12月の4回にわたり繰り返し採取した.
本地域の温泉水はSO4の卓越する東側とClの卓越する西側に大別され,特に西側グループの山田温泉のCl濃度は1500 mg/Lを超える.その一方で,白根火砕丘周辺や草津温泉とは対照的に,本地域の温泉水は中性付近のpH値であり, 水の酸素・水素安定同位体比は当地の天水付近に分布する. 陽イオンではNaないしCaが卓越し, 水質はNa・Ca-Cl・SO4型を示す. これらの特徴は, 当該地域の温泉水は周辺地域の天水を主体とする一方で,一部には化石海水型の熱水を含み, その他にCaSO4などの硫酸塩の溶解や陽イオン交換反応などが水質形成に寄与していると考えられる. 一方, 温泉に含まれるSO4の硫黄安定同位体比が+8.3 ~ +15.4‰の範囲で様々な値を取ることは,熱水系におけるSO2の不均化反応により生じた種々の硫黄同位体比を有する硫酸態硫黄が存在することを示唆する.
4.議論
草津白根山西方で認められた群発地震の震源域は白根火砕丘から12km離れており,空間的に孤立していた.同村内に酸性火山ガスを放出する噴気孔などは認められない.一方で,本地域深部には草津白根火山に関係する深部圧力源が存在すると考えられている.2018年の高山村付近の群発地震は,2018年9月の草津白根山白根火砕丘浅部膨張と約1週間程度の時間差で始まっている.さらに,2019年9月頃に,Cl濃度が高い一部の温泉水の組成に変化が認められている.以上のことから,深部マグマだまりの増圧および群発地震が,高山村付近の温泉水形成に関与しているものと考えられる.
謝辞
長野県高山村役場には調査に関して格別のご配慮を賜りました.解析に使用した地震データの一部は防災科学技術研究所から提供されました.温泉水調査は文部科学省「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究」から,地震観測は同「次世代火山研究推進事業」の支援を受けました.ここに記して厚く御礼申し上げます.
草津白根火山では,強酸性の湯釜火口湖を有する白根火砕丘直下で微小地震が2014年頃から多発するようになり,さらに地表面から深さ1000m付近の増圧を示す地殻変動が2014年から断続的に観測されている.これらの活動は,湯釜周辺の火山ガスや湯釜火口湖の成分濃度比の変化や,火口湖水温上昇などを伴ったことから,高温流体の浅部への上昇が関係していると考えられる.一方で,草津白根山西方のより深部を圧力源とする地殻変動がGNSS観測から示唆されている.この領域では2018年9月下旬から同12月にかけて地鳴りを伴う群発地震が発生した.草津白根火山のマグマ・熱水供給系をより広い領域から再検討する目的で,2018年10月に同火山西方の4か所に地震計を,2か所に空振計を設置したほか,同地域に分布する温泉群について一斉採取を繰り返し行った.その化学組成と地震活動に基づき,草津白根火山のマグマ・熱水系を検討した.
2.地震活動
草津白根山西方(長野県高山村付近)では,2018年9月から12月にかけて地鳴りを伴う活発な地震活動が発生した.聞き取り調査の結果,地鳴りは同村内松川渓谷沿いでよく聞こえ,さらに北方に位置する同山之内町でも広く感じられた.一方で,松川渓谷からやや離れた同役場付近,松川渓谷上流の七味温泉,志賀高原において地鳴りの報告は少なかった.
同年10月以降に設置した4か所の臨時観測点,防災科学技術研究所・中野観測点,および東京工業大学草津白根火山観測所既設の地震計をあわせて震源決定を行った結果,群発地震は高山村三沢山周辺(草津白根火山湯釜火口湖から西方12km),海抜下4 km付近の狭い範囲で繰り返し発生していることが分かった.また,さらに西方の須坂市にも2か所にも震源域が認められた.解析期間を通じて震源域の移動は認められなかった.
松川渓谷において地鳴りを聴いた時刻に対応する地震・空振波形を検討すると,地鳴りに対応すると考えられる空気振動は,その場で地震動により励起されていることが分かる.地鳴りを起こす地震の震源域は,三沢山および須坂市の震源域の両方であった.少数であるが,志賀高原付近でおきる微小地震も松川渓谷において地鳴りを起こしていた.
3.草津白根山西方温泉の起源
群発地震が発生した2018年10月から2019年にかけて,高山村内の各温泉水を採取した.時間変動を検討するため,主要源泉については2018年12月,2019年4月,同9月,および同12月の4回にわたり繰り返し採取した.
本地域の温泉水はSO4の卓越する東側とClの卓越する西側に大別され,特に西側グループの山田温泉のCl濃度は1500 mg/Lを超える.その一方で,白根火砕丘周辺や草津温泉とは対照的に,本地域の温泉水は中性付近のpH値であり, 水の酸素・水素安定同位体比は当地の天水付近に分布する. 陽イオンではNaないしCaが卓越し, 水質はNa・Ca-Cl・SO4型を示す. これらの特徴は, 当該地域の温泉水は周辺地域の天水を主体とする一方で,一部には化石海水型の熱水を含み, その他にCaSO4などの硫酸塩の溶解や陽イオン交換反応などが水質形成に寄与していると考えられる. 一方, 温泉に含まれるSO4の硫黄安定同位体比が+8.3 ~ +15.4‰の範囲で様々な値を取ることは,熱水系におけるSO2の不均化反応により生じた種々の硫黄同位体比を有する硫酸態硫黄が存在することを示唆する.
4.議論
草津白根山西方で認められた群発地震の震源域は白根火砕丘から12km離れており,空間的に孤立していた.同村内に酸性火山ガスを放出する噴気孔などは認められない.一方で,本地域深部には草津白根火山に関係する深部圧力源が存在すると考えられている.2018年の高山村付近の群発地震は,2018年9月の草津白根山白根火砕丘浅部膨張と約1週間程度の時間差で始まっている.さらに,2019年9月頃に,Cl濃度が高い一部の温泉水の組成に変化が認められている.以上のことから,深部マグマだまりの増圧および群発地震が,高山村付近の温泉水形成に関与しているものと考えられる.
謝辞
長野県高山村役場には調査に関して格別のご配慮を賜りました.解析に使用した地震データの一部は防災科学技術研究所から提供されました.温泉水調査は文部科学省「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究」から,地震観測は同「次世代火山研究推進事業」の支援を受けました.ここに記して厚く御礼申し上げます.