JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-14] 草津白根山湯釜火口湖の化学組成変化

*谷口 無我1大場 武2寺田 暁彦3 (1.気象庁気象研究所火山研究部、2.東海大学理学部化学科、3.東京工業大学理学院火山流体研究センター)

キーワード:草津白根山、湯釜火口湖、水蒸気噴火、Mg/Cl比

草津白根山は群馬県北西部に位置する白根火砕丘, 逢の峰火砕丘, 本白根火砕丘から成る活火山である. 当該火山では, 2018年1月に本白根火砕丘で水蒸気噴火が発生したが, 有史以降の噴火の多くは白根火砕丘の湯釜火口およびその周辺で発生している[1]. 湯釜火口における最後の噴火は, 1982-83年の活動期に発生した5回の水蒸気噴火であるが, その後も, 1989-91年に湯釜火口周辺を震源とした地震の頻発や微動あるいは湖面の変色, 1996年には湯釜火口内での突出などが発生している. 湯釜火口湖の化学組成は1940年台から分析されていて, それ以降2005年頃まではOhba et al. [2] が整理し, 火山活動との対応やマグマ脱ガスモデルについて詳しく議論している. 一方, 湯釜周辺では近年でも顕著な活動が観測さえており, 例えば2014年に湯釜直下の膨張を示す地殻変動や湯釜直下の温度上昇を示唆する磁力変化などを伴った比較的顕著な群発地震が発生したほか, 2018年, 2019年にも地震数の増加が観測されている[1][3].

近年の湯釜火口湖の化学組成変化のうち特筆すべき一つは2014年の群発地震発生後に観測された湖水のpH低下, およびCl, SO4濃度の増加などを伴う変化である. とりわけClの増加は顕著で, 2016年10月には5,000 mg/Lを超えて観測史上最も高い濃度を記録した. 過去に湯釜で顕著なCl増加を伴うpHの低下が捉えられたのは, 噴火は発生せずに地震数が増加した1989-91年の活動期からその後の1992年頃にかけての時期で, 当時のClの増加は固化しつつあるマグマに到達した地下水が加熱されて蒸気となりHClを効率的に抽出したことに起因すると考えられている[2]. 2014年の活動の前後においてもH+とCl濃度には良い相関が認められ (2012年6月~2019年7月: R2=0.80), 2014年の群発地震発生後に観測された水質変化は1989-91年活動期と同様に, 地下水起源の蒸気と固化しつつあるマグマの接触によって湖水へのHClの供給が促進されたことに起因すると考えられる.

一方, 著者らは火山活動の指標の一つとして湖水のMg/Cl比にも着目している. これらのうちMgは草津白根山の山体を構成する安山岩に由来する成分である[2]. ClやMgは二次鉱物として沈澱しにくいため, 例えばHClに富むような酸性の流体が高温の岩体と接触して水-岩石相互作用が促進されれば, 溶脱したMgが湖水に供給されて, Mg/Cl比が増加すると期待される. 実際に, 湯釜火口周辺で複数回の噴火が発生した1982-83年活動期, および湯釜火口内での突出が発生した1996年の前後などには湖水のMg/Cl比に顕著な増大が認められており[2], やはり噴火あるいはそれに準ずるような活動の要因にはマグマ-熱水系における活発な水-岩石相互作用が重要な役割を果たしているように思われる. 近年では, 2019年の秋頃からMg/Cl比の僅かな増大が観測され, それらの結果は火山噴火予知連絡会等に提供している. 本発表では, 近年の湯釜火口湖の化学組成を報告するとともに, その変化の要因と火山活動との対応について考察する.
*本研究は東京大学地震研究所共同利用(2019-Y-火山5)の助成を受けました.

[1] 寺田暁彦 (2018) 地質学雑誌, 124, 251-270. [2] T. Ohba et al. (2008) JVGR, 178, 131-144. [3] 気象庁 (2019) 火山解説情報(草津白根山)(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK /monthly_vac t_doc/monthly_vact_vol.php?id=305).