[SVC45-16] 火口周辺から放出される土壌ガスの起源ーヘリウム同位体比からの示唆ー
キーワード:草津白根火山、土壌拡散ガス、ヘリウム同位体、側噴火、浅部透水構造
1.はじめに
水蒸気爆発は,地下浅部に存在する熱水が急激に気化・膨張することで,熱水を保持しているキャップロックの構造的に脆い部分を破壊することで発生する.すなわち,キャップロックの力学的な不均質性を明らかにすることは,将来の噴火発生場所を予測するために重要である.本研究では,水蒸気爆発を繰り返している草津白根火山において土壌ガスを採取し,それに含まれるヘリウムの安定同位体比(以降,3He/4He比),ヘリウム-ネオン比(以降,4He/20Ne比)を分析した.この結果を,土壌拡散ガス放出率や過去の噴火発生場所と比較することで,同火山における地下浅部透水構造の不均質性について検討した.
2.ヘリウム安定同位体比
ヘリウムには安定同位体として3Heと4Heが存在し,その存在比は起源により異なる.ヘリウムは化学的に不活性なため,地上付近で採取したガスの3He/4He比からガスの起源を検討できる.一般に,噴気や温泉水など地下から供給された流体に含まれるガスからは,マグマや地殻に由来するヘリウムの寄与を反映した3He/4He比が得られることが多い.その一方で,多くの場合,土壌ガスの3He/4He比は大気(1.4×10-6=1 RA)に一致すると考えられている.これは,土壌ガスは大気混入の影響を大きく受けるためである.もし,採取場所を任意に選択できる土壌ガスから地下起源の3He/4He比を検出できれば,地下浅部透水構造やヘリウムの流動について,従来よりも詳細な議論が可能かも知れない.
3.方法
空気混入の影響をできる限り排除するため,同火山の地表下に広く分布する粘土層までPVC管を埋め込み,土壌ガスをガラス瓶へ採取した.採取場所は草津白根火山の白根火砕丘・湯釜火口外側の計9点(噴気地付近で3点,南側斜面で4点,湯釜火口から離れた場所で2点),および周辺大気である.これら採取作業は2019年9 – 11月に繰り返し行った.同位体比分析は,東京大学大学院総合文化研究科の質量分析計で実施した.試料への大気混入率は4He/20Ne比に基づき評価した.
4.結果と議論
湯釜火口から離れた2点と大気の3He/4He比は,大気の典型値と一致した.4He/20Ne比からも,これらガスの起源は大気であることが分かる.一方,噴気地付近の3点では,3He/4He比,4He/20Ne比のいずれの値も大気よりも大きく,最も大きな3He/4He比は6.8 RAを取る.この3He/4He比は同地域の噴気ガスか得られる値に矛盾せず,測定条件がよければ土壌ガスからもRAの議論が可能と思われる.
噴気域ではなく,遊歩道や観光駐車場が整備されている火口外側の南側斜面においても大気と異なる同位体比が得られた.すなわち,2か所では4He/20Ne比が大気よりも有意に大きく,3He/4He比は大気と比較して高い・低い値が得られた.一般に,同位体比が異なる原因は,異なる3He/4He比を有するガスの混合比を反映したものと考えられている.草津白根火山の温泉や噴気ガスについても,マグマ起源の高3He/4He比ガスと,地殻起源で1を下回る低3He/4He比ガスとの混合が指摘されている(Sano et al., 1994).すなわち,今回得られた2か所については,大気よりも低い3He/4He比を有する地下起源ガスと,マグマガスが様々な割合で混合しており,結果として3He/4He比=1RA付近の値を取るガスが地下から噴出していると考えられる.
1カ所については,4He/20Ne比が大気よりも有意に大きい一方で,3He/4He比は大気と一致していた.おそらく,この測定点でも低3He/4He比地下起源ガスとマグマ起源ガスが混合したガスが噴出しており,その混合比により,結果として大気と同じ3He/4He比を有するガスが形成されているのであろう.
これら地下起源のガスが示唆された南側斜面では,地下熱水などを起源とする土壌気体水銀の高い放出率が確認されている.この領域では,過去数100年間に水蒸気爆発が繰り返されてきたことから,同地域では地中からのガス供給が現在も継続しており,それは地下の高透水性領域,すなわち将来も噴火を起こし得る破砕帯に対応すると考えられる.
これまでの3He/4He比の測定は,存在場所が限られる温泉や噴気に限定されてきた.今回,採取方法を工夫することで土壌ガスからも3He/4He比の議論が可能であることが示唆された.測定場所の制限がなくなることで,火山におけるヘリウムの挙動や流動経路の理解を深めることが期待できる.
水蒸気爆発は,地下浅部に存在する熱水が急激に気化・膨張することで,熱水を保持しているキャップロックの構造的に脆い部分を破壊することで発生する.すなわち,キャップロックの力学的な不均質性を明らかにすることは,将来の噴火発生場所を予測するために重要である.本研究では,水蒸気爆発を繰り返している草津白根火山において土壌ガスを採取し,それに含まれるヘリウムの安定同位体比(以降,3He/4He比),ヘリウム-ネオン比(以降,4He/20Ne比)を分析した.この結果を,土壌拡散ガス放出率や過去の噴火発生場所と比較することで,同火山における地下浅部透水構造の不均質性について検討した.
2.ヘリウム安定同位体比
ヘリウムには安定同位体として3Heと4Heが存在し,その存在比は起源により異なる.ヘリウムは化学的に不活性なため,地上付近で採取したガスの3He/4He比からガスの起源を検討できる.一般に,噴気や温泉水など地下から供給された流体に含まれるガスからは,マグマや地殻に由来するヘリウムの寄与を反映した3He/4He比が得られることが多い.その一方で,多くの場合,土壌ガスの3He/4He比は大気(1.4×10-6=1 RA)に一致すると考えられている.これは,土壌ガスは大気混入の影響を大きく受けるためである.もし,採取場所を任意に選択できる土壌ガスから地下起源の3He/4He比を検出できれば,地下浅部透水構造やヘリウムの流動について,従来よりも詳細な議論が可能かも知れない.
3.方法
空気混入の影響をできる限り排除するため,同火山の地表下に広く分布する粘土層までPVC管を埋め込み,土壌ガスをガラス瓶へ採取した.採取場所は草津白根火山の白根火砕丘・湯釜火口外側の計9点(噴気地付近で3点,南側斜面で4点,湯釜火口から離れた場所で2点),および周辺大気である.これら採取作業は2019年9 – 11月に繰り返し行った.同位体比分析は,東京大学大学院総合文化研究科の質量分析計で実施した.試料への大気混入率は4He/20Ne比に基づき評価した.
4.結果と議論
湯釜火口から離れた2点と大気の3He/4He比は,大気の典型値と一致した.4He/20Ne比からも,これらガスの起源は大気であることが分かる.一方,噴気地付近の3点では,3He/4He比,4He/20Ne比のいずれの値も大気よりも大きく,最も大きな3He/4He比は6.8 RAを取る.この3He/4He比は同地域の噴気ガスか得られる値に矛盾せず,測定条件がよければ土壌ガスからもRAの議論が可能と思われる.
噴気域ではなく,遊歩道や観光駐車場が整備されている火口外側の南側斜面においても大気と異なる同位体比が得られた.すなわち,2か所では4He/20Ne比が大気よりも有意に大きく,3He/4He比は大気と比較して高い・低い値が得られた.一般に,同位体比が異なる原因は,異なる3He/4He比を有するガスの混合比を反映したものと考えられている.草津白根火山の温泉や噴気ガスについても,マグマ起源の高3He/4He比ガスと,地殻起源で1を下回る低3He/4He比ガスとの混合が指摘されている(Sano et al., 1994).すなわち,今回得られた2か所については,大気よりも低い3He/4He比を有する地下起源ガスと,マグマガスが様々な割合で混合しており,結果として3He/4He比=1RA付近の値を取るガスが地下から噴出していると考えられる.
1カ所については,4He/20Ne比が大気よりも有意に大きい一方で,3He/4He比は大気と一致していた.おそらく,この測定点でも低3He/4He比地下起源ガスとマグマ起源ガスが混合したガスが噴出しており,その混合比により,結果として大気と同じ3He/4He比を有するガスが形成されているのであろう.
これら地下起源のガスが示唆された南側斜面では,地下熱水などを起源とする土壌気体水銀の高い放出率が確認されている.この領域では,過去数100年間に水蒸気爆発が繰り返されてきたことから,同地域では地中からのガス供給が現在も継続しており,それは地下の高透水性領域,すなわち将来も噴火を起こし得る破砕帯に対応すると考えられる.
これまでの3He/4He比の測定は,存在場所が限られる温泉や噴気に限定されてきた.今回,採取方法を工夫することで土壌ガスからも3He/4He比の議論が可能であることが示唆された.測定場所の制限がなくなることで,火山におけるヘリウムの挙動や流動経路の理解を深めることが期待できる.