JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-21] Sentinel-1とALOS-2で捉えたタール火山2020年噴火に伴う地殻変動

*橋本 学1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:タール火山、SAR、地殻変動、ダイク貫入、デフレーション

2020年1月12日,フィリピン・タール火山が噴火し,周辺住民や観光客が避難する事態となった.カルデラ南西部においては,地割れが現れたとの報道もあり,ダイクが貫入した可能性がある.この活動に伴う地殻変動を検出するために,2019年初めからのSentinel-1とALOS-2のSAR画像を収集・解析した.

Sentinel-1は6または12日の間隔で同じ形態で観測する.そのため地表面の変動の時間変化を捉えるのに適している.欠点は用いるレーダーの波長が短いことで,植生が深いところでは相関が得られないことが多い.一方,ALOS-2は波長の長いLバンドSARを使っているので,熱帯地域においても高いコヒーレンスが得られる.しかし,再来間隔は最短14日で,決して規則的に観測がなされているわけではない.それゆえ,ここでは噴火前の変動の時間変化をSentinel-1データを用いて検出し,ALOS-2はその積算を求めるために用いる.また,噴火を挟む期間はALOS-2とSentinel-1の両者を用いる.ALOS-2と噴火を挟むSentinel-1の解析にはGammaを用い,噴火前のSentinel-1データの時系列解析には,Morishita et al.(2020)によるLiCSBASを用いた.

噴火前の1年間,カルデラ中心部に40 mm/yrを超える,急速な衛星に近づく変動が検出された.これは南北両方の軌道からの観測で見られ,中央火口丘直下のマグマ溜まりのインフレーションを示唆する.ALOS-2の北行軌道の観測による1年間の積算でも,同様なパターンの変動が認められる.

噴火を挟んで,極めて顕著な変動が火山周辺で観測されたが,その空間分布は噴火前のものとは大きく異なる.噴火前に衛星に近づいていた領域は,40 cm以上衛星から遠ざかっている.地割れが報告されたカルデラ南西部では大きな変動が検出されたが,Sentienl-1では変動が大きすぎてコヒーレンスが得られない.この低コヒーレンス領域の東西が,それぞれ東及び西へ移動したように見える.この低コヒーレンス領域の変動を知るために,オフセット(画像のマッチングで得られるピクセル毎のズレ)を求めた.ALOS-2のレンジ・オフセット(東西+上下成分)では,低コヒーレンス領域の西端に明瞭なセンスの逆転が見られる.アジマス・オフセット(ほぼ南北成分)も,低コヒーレンス領域を境にした4 mに及び伸長を示している.これらの観測結果は,中央火口丘直下のマグマたまりの収縮とカルデラ南西部へのダイクの貫入を示唆する.簡単なモデル計算により,中央火口丘の直下の浅い収縮源とそこから南西方向にカルデラ壁を越えて延びる開口断層の組み合わせで,観測された地殻変動を説明できることがわかる.ただし,さらなるパラメータの調整が必要である.

本研究で用いたALOS-2画像は,宇宙航空研究開発機構から提供され,PIXELで共有されているものです.その著作権・所有権はJAXAにあります.Sentinel-1画像は,COMET-LiCS Sentinel-1 InSAR portalおよび欧州宇宙機関のCopernicus Open Access Hubより取得しました.