JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-37] 霧島硫黄山2018年水蒸気噴火に先行する浅部膨張過程

*成田 翔平1村上 亮1古屋 正人2高田 陽一郎2青木 陽介3小澤 拓4島田 政信5 (1.北海道大学地震火山研究観測センター、2.北海道大学大学院理学院、3.東京大学地震研究所、4.防災科学技術研究所、5.東京電機大学)

キーワード:地盤変動、水蒸気噴火、合成開口レーダー、火山浅部熱水系、航空機搭載合成開口レーダー

水蒸気噴火は, 火山浅部に発達した熱水系の活動の活発化に伴って発生することが多く, 噴火に先行する熱水系の圧力増加に伴って何らかの地盤変動の出現が期待される。近年, 衛星搭載型の合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar: SAR)に代表される宇宙測地観測により,非噴火期の多くの火山において熱水系の圧力変動を反映した地盤変動が捉えられているが,噴火に至った火山を詳細に調べた事例は極めて少なく、水蒸気噴火前の浅部熱水系の圧力状態の推移に対する我々の理解は限られている。本研究は、その理解をめざし, 2018年にごく小規模な水蒸気噴火が発生した霧島硫黄山を対象として,噴火前の期間に取得されたSARデータの解析を行った。

本研究では, 2014年から2018年までの4年間において, JAXAの運用する衛星SARであるPALSAR-2の2軌道データ、および, 村上・他(2019, JpGU)により解析された航空機SARの3軌道から得られた複数の干渉画像を用いて, 地殻変動の時空間的進展を追跡する。 航空機SARを含めた, これら5つの異なる軌道の干渉画像を用いることで, 衛星SARだけでは推定が困難な微小変動の3次元変動場の推定が可能となる。

3次元変動場の推定は, 2014年8月から2016年8月と, 2016年8月から2017年9月の2つの期間において行った。 2014-2016年では硫黄山中央の噴気孔群を中心にほぼ軸対称の膨張パターンが見られたが, 2016-2017年では明らかに異なる変動パターンが見られた。 2016-2017年では, 最大隆起地点が2014-2016年時よりも南側に約70 m移動しており, 2018年噴火の火口列はそのごく近傍(〜30m)で形成された。 最大隆起地点が移動し、その近傍で火口が形成される過程は, 箱根火山2015年噴火時にも見られた現象であり(Kobayashi et al., 2018), 最大隆起地点の追跡によって水蒸気噴火の開始地点の予測に資する可能性がある。

シル状の開口クラックを仮定したモデリングにより, 2014-2016年の膨張源は深さ150mのごく浅部に推定された。 このモデルを2016-2017年の変動場に対して適用すると, 全体の膨張パターンは再現できたが, 南側の局所的な膨張パターンは再現できなかった。 これは, 2014-2016年の圧力源よりも浅い地表付近に別の高圧部分が形成されていることを示唆している。 また, 衛星SARのみで2017年9月から2018年4月10日までの準東西および準上下成分を推定すると, 2016-2017年とほぼ同様の膨張パターンを示し, その最大隆起地点は16-17年から変わっていなかった。 また, 衛星SARデータから得た2014年から2018年までの視線方向変位の時系列に着目すると, この膨張中心の移動は2017年4月末に起こっており, さらに2017年4月26日には, この膨張中心のごく近傍で土砂噴出が発生している。 これらより, 南側の局所的な膨張は, この土砂噴出をトリガーとして始まり, 噴火直前まで継続したと推測される。