[SVC45-P03] 地震波動場連続解析システムによる長周期火山性地震の検出
キーワード:火山性地震、地震波動場、リアルタイム処理
火山浅部で発生する卓越周期10秒前後の長周期地震は,浅部熱水系などにおける火山性流体が直接的に関与した振動現象と考えられており,水蒸気噴火に卓越する国内外の火山において多くの観測事例が報告されてきた.そのため,長周期地震の検出と活動推移の把握は,火山浅部における熱水系の状態把握や水蒸気噴火の切迫性の評価などに重要と考えられる.従来,このような長周期地震は,震源域近傍における広帯域地震観測を用いて検出・解析が行われてきたが,観測網が必ずしも十分でない火山においてはその網羅的な検出は行うことが困難であり,また観測網が整備された火山においても現象の見逃しの可能性も想定される.例えば,八甲田山においては,2013年から2015年にかけて卓越周期10秒の長周期地震が頻発したが,震源域近傍には広帯域地震観測点はなく,臨時広帯域地震観測点の設置まで,その活動の詳細を把握することが困難であった.そこで,本研究では,次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトにおいて開発を進めている地震波動場連続解析システムの一環である地震波逆伝播解析を用いて,広域の基盤観測網のデータによる長周期地震の検出について検証した結果を,蔵王山で観測される長周期地震を事例として報告する.
地震波動場連続解析システムは,地震波干渉法解析・地震波逆伝播解析・スペクトル解析などを連続的に解析することを目的に開発が進められているが,地震波逆伝播解析については仮想震源を仮定した波形重合 (slant stack) を行うものである.原理的には,Kao and Shan (2004) による Source-Scanning Algorithm と同等である.ここでは,火山性長周期地震の周期帯が10秒前後の帯域であり震源が浅いことから,遠方への地震波動伝播が表面波に卓越したものであると仮定し,レイリー波の伝播時間を用いた連続波形記録の重合を行っている.また,このレイリー波の伝播は,対象火山の想定火口周辺の観測点と周辺広域の基盤観測網の観測点の各ペアについて常時微動干渉法解析を用いて事前に計算したものを利用している.
この手法を用いた長周期地震の検出能力の検証のために,蔵王山で断続的に発生している長周期地震(卓越周期約10秒)を対象とした実験を行った.一般的に長周期地震の発震機構が体積変化成分に富むことや,震源の放射特性(方位依存性)の影響を軽減するために,解析には上下動成分を用いた.複数の周期帯域における試行を行った結果,目視・手動検測によって検出した長周期地震のうち比較的規模の大きなイベントについては,ほぼ漏れなく検出ができ,検出した発振源のエネルギーは,震源近傍で測定した長周期地震の規模と相関することが明らかとなった.一方で,気象要因などにより常時微動の振幅が大きい時期等,データのS/N比が検出率を大きく支配したため,解析に用いる観測点数や距離範囲のさらなる検討が必要である.
現在,蔵王山・吾妻山・浅間山を対象とした連続的な解析を試行しているが,自動処理の最適化により,火山活動の推移把握に資することができることが期待される.
謝辞:本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の支援を受けて実施しました.記して感謝申し上げます.
地震波動場連続解析システムは,地震波干渉法解析・地震波逆伝播解析・スペクトル解析などを連続的に解析することを目的に開発が進められているが,地震波逆伝播解析については仮想震源を仮定した波形重合 (slant stack) を行うものである.原理的には,Kao and Shan (2004) による Source-Scanning Algorithm と同等である.ここでは,火山性長周期地震の周期帯が10秒前後の帯域であり震源が浅いことから,遠方への地震波動伝播が表面波に卓越したものであると仮定し,レイリー波の伝播時間を用いた連続波形記録の重合を行っている.また,このレイリー波の伝播は,対象火山の想定火口周辺の観測点と周辺広域の基盤観測網の観測点の各ペアについて常時微動干渉法解析を用いて事前に計算したものを利用している.
この手法を用いた長周期地震の検出能力の検証のために,蔵王山で断続的に発生している長周期地震(卓越周期約10秒)を対象とした実験を行った.一般的に長周期地震の発震機構が体積変化成分に富むことや,震源の放射特性(方位依存性)の影響を軽減するために,解析には上下動成分を用いた.複数の周期帯域における試行を行った結果,目視・手動検測によって検出した長周期地震のうち比較的規模の大きなイベントについては,ほぼ漏れなく検出ができ,検出した発振源のエネルギーは,震源近傍で測定した長周期地震の規模と相関することが明らかとなった.一方で,気象要因などにより常時微動の振幅が大きい時期等,データのS/N比が検出率を大きく支配したため,解析に用いる観測点数や距離範囲のさらなる検討が必要である.
現在,蔵王山・吾妻山・浅間山を対象とした連続的な解析を試行しているが,自動処理の最適化により,火山活動の推移把握に資することができることが期待される.
謝辞:本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の支援を受けて実施しました.記して感謝申し上げます.