JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P10] 草津白根山で発生したLPイベントの発生過程:水蒸気の凝縮に伴うクラック体積の減少と固有振動の励起

*田口 貴美子1熊谷 博之1前田 裕太1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

火山活動の活発化に伴い観測される地震のうち、long-period (LP)イベントは熱水割れ目などの振動体中で流体の圧力変化が起きることで引き起こされ、その波形の減衰振動のQ値や周波数は振動体の形状や流体特性に、スペクトルは振動を励起する圧力変化の起きる範囲によって変化すると考えられている。Taguchi et al. (J. Geophys. Res., 2018; AGU Fall Meeting, 2019)は振動体としてクラックモデル(Chouet, J. Geophys. Res., 1986) を考え、それに基づき振動体の形状や流体特性を同時に推定する手法を確立した。その手法を用いた解析結果、および観測波形の初動が引きであることから、草津白根山で1992年から1993年にかけて発生したLPイベントは既存割れ目に水蒸気が供給され、その一部がクラックの端で凝縮し、生成したミストと水蒸気を含む割れ目の固有振動が起きたことで発生したと解釈されている。しかしこの励起に関する解釈は定性的なものであり、定量的な議論は行われていなかった。
そこで本研究では草津白根山で1992年11月2日に発生したLPイベントについて、それを励起した流体の圧力変化の範囲や体積変化量を調べ、イベント発生過程の定量的解釈を試みた。まず、圧力変化が起きる範囲を変えてクラックの振動により発生する遠地合成波形を計算し、そのスペクトルを観測されたLPイベント波形のスペクトルと比較した。計算にはTaguchi et al. (2018)で推定したクラック形状と流体特性の値を用いた。観測スペクトルには低次から順に波長2L/3、2L/5(L:クラック長さ)と推定される周波数ピークがみられ、これらはクラックの幅全体にわたる圧力変化を長軸方向の端に与えたときに説明することができた。この励起範囲は先行研究でLPイベントを励起した水蒸気の凝縮がクラックの端で起きたと解釈されていることと整合的である。次に、LPイベントの発生に伴う流体の体積変化量を推定した。Taguchi et al. (2018; 2019)により推定されたクラックの形状や流体特性はLPイベント波形の減衰振動から推定されたもの、つまり水蒸気が凝縮しミストが生成した後に振動していたクラックのものである。この際のクラックは長さ160 m、幅87 m、厚さ92 mm、体積1300 m3、そのうちミストの占める体積は46 m3と推定されている。このミストはすべて水蒸気だったと仮定し、LPイベント発生前の水蒸気の総体積を推定したところ3500 m3と推定された。さらに、圧力変化の範囲の推定から考えられるように凝縮がクラックの端で起き、それに伴いクラック体積が減少したと仮定すると、凝縮前後でクラック長さは280 m減少したと推定される。観測波形の初動から減衰振動の開始までに数秒かかっており、これと本研究の結果を合わせるとLPイベントの発生過程を以下のように考えることができる。まず水蒸気の供給に伴い開いた既存割れ目の端で凝縮が発生し、LPイベントの初動が励起されると同時にクラックが振動する。この振動に伴う圧力変化の中で水蒸気の一部はミストとなり、最初に凝縮の起きた端からクラックの大半は閉じていく。ミストの生成が終わり、残った開口クラックで定常振動が起きたところでLPイベント波形は減衰振動を示すと考えられる。