JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P13] 有限要素法を用いた地殻変動解析システムの開発

*小林 知勝1山田 晋也1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:有限要素法、火山性地殻変動、地形、地下構造

はじめに
近年,SAR等による火山観測の高度化に伴い,山頂域を含めた山体の変動を詳細に捉えられるようになってきた.これに伴い,力源推定のための地殻変動計算も高度化が必要となってきている.火山においては,地形の起伏や地下構造の不均質性が地殻変動の計算に影響することが予想される.そのため,より正確な力源推定には,従来の解析解では対応できない場合があり,これらを考慮した解析が不可避である.このような背景の下,特に火山を対象とした三次元有限要素法を用いた地殻変動計算システムの開発に取り組んできた.本発表では,解析システムの特長や機能について紹介し,実際の火山における変動計算を通して地形や地下構造の影響について紹介する.

解析システムの概要
本システムは計算領域の要素分割処理,3次元有限要素法による地殻変動計算,及び力源推定の処理部から構成される.微小変形理論に基づく線形弾性による変形を計算の対象としている.弾性変形の計算には,アドバンスソフトが開発した「Advance/FrontSTR」を用いた.本システムでは,国土地理院の基盤地図情報数値標高モデル(10mメッシュ(標高):DEM10B)をシステム内に標準装備し,ユーザは緯度・経度の範囲を指定することにより,国内の任意の陸地において地殻変動計算や力源推定を実行できる.GUI操作により,解析領域の範囲(緯度,経度,深さ),要素分割数,力源の種類・位置・形状等を設定できる.また,火山性地殻変動の解析でよく使われる矩形クラック,球,回転楕円体の3種類の力源形状をGUIから選択でき,設定した計算条件や力源に対して,要素モデルの作成から地殻変動計算や力源推定までを一括して実行可能である.得られた計算結果は,vtk形式のファイルに格納され,可視化ソフトウェアParaViewを用いて三次元表示や操作が可能である.

計算速度向上のための技術
本研究では,有限要素法の短所である計算効率を向上させるため,計算時間を増大させる主要因となる要素数を効果的に削減する無限要素の導入や力源近傍の分割を重点的に細密化する処理を実装した.有限要素法では,有限の領域内での計算を行うため,側面や底面の影響を受けた人工的な誤差を生じ得る.そこで本システムでは無限要素の機能を実装した.地表面を除く水平方向及び深さ方向の端部境界に無限要素を設置して弾性変形を計算することにより,計算領域境界に無限遠に達する有限要素を加えたことと等価な扱いで計算が可能となる.さらに,力源の周囲の格子のみを部分的に細密化することで,過度な要素数の増大を防ぎつつ,応力集中部(力源近傍)の計算精度を確保できるようにした.これらにより,要素数を大きく増やすことなく,計算精度を保ちつつも計算速度を向上させることができた.

地形や地下構造を考慮した計算の効果
実際の火山における変動計算を通して,地形や地下構造の影響について検証した.ここでは,御嶽山の山体内に膨張する力源を想定し,力源の位置により地表がどのような影響を受けるかを調べた.その結果,力源が山体の浅部に位置する際は地形の影響を強く受けて,深部にある場合には隆起だった領域が沈降に転じたり,傾斜の向きが反対方向になる等の大きな変化をもたらすことが明らかとなった.さらに,桜島において地下構造の影響についても検証した.地震波探査で得られている地下構造を考慮して変動計算を行ったところ,力源近傍域においては,均質媒質を仮定した従来法による場合よりも,地表変位が数割増大することが示された.