[SVC45-P15] 相対重力計特性個体差の補正 -伊豆大島火山における合同精密重力観測データを用いて-
キーワード:伊豆大島火山、重力
1. はじめに
伊豆大島火山のマグマ蓄積過程の解明および次期噴火の前駆現象の検出を目指し,気象庁気象研究所(以下,MRI)では相対重力計による繰り返し観測を実施してきた.2008年以降はLaCoste & Romberg D#109およびScintrex CG-5#033の2台を継続的に使用している.比較的高頻度の観測を実施しているものの,測定データには重力計スケールファクターをはじめとする相対重力測定に起因する不確定性を孕んでいた.測定精度が5~10 µGal程度とされる相対重力計において,個体差の影響を補正せずに火山活動に伴う数十µGalの微小な重力変化を検出すること,複数の相対重力計について齟齬のない測定結果を得ることは必ずしも容易ではない.一方,東京大学地震研究所(以下,ERI)は絶対重力計と相対重力計によるハイブリッド観測を実施してきた.両機関の利点を活かした伊豆大島の地下活動の解明と今後の協働体制を見据えて共同観測研究を開始した.
本発表では,主にMRIが所有する相対重力計について,絶対重力点でのスケール検定など個体差の補正に関して,共同研究の意義を交えながら報告する.
2. スケール検定
MRI所有の2台の重力計は,近年まで絶対重力点を用いたスケール検定が十分になされておらず,両者の相対的なスケールの把握に留まっていた.メーカ提供スケールファクターを用いた場合,相対スケールは時間と共に変化し10年間で約1,000 ppmにも達する.重力差が180 mGalを越える観測網において1,000 ppmもの時間変化がある限り,数十µGalの微小な重力変化を検出・議論することは不可能である.さらにD#109の低ダイアルレンジにおいて相対スケールは線形関係からずれているように見える.以上のことから,両重力計の絶対スケールとその時間変化の把握が必須であった.
2.1 D#109
2017年3月に伊豆大島の2ヶ所(重力差111 mGal)においてERIが実施した絶対重力測定結果を用いて,同年5月,6月にD#109の検定を行った.D#109の測定レンジは約240 mGal(ダイアルレンジ:200,スケールファクター:約1.2)のため,D型重力計のリセット機能を用い,同一測線にて高ダイアルレンジ,低ダイアルレンジの2回の測定を行った.この結果,メーカ提供値は高ダイアルレンジでは約10-4で合致したが,低ダイアルレンジにて大きくはずれ,相対スケールから示唆されていたメーカ提供値のずれが実測により確認された.このため,0~100の低ダイアルレンジについて,本検定データを用いて補正を行った.
2.2 CG-5#033
2012年から2017年にかけて,国土地理院が構築した日本重力基準網重力点を利用した検定測定を行ってきた.これらのデータを整理したところ,1) スケールファクターは測定場所や時間によらず,重力読み取り値に依存していること,このため読み取り値依存スケールファクターを導入すればスケール補正が可能であることがわかった.さらに,2) 1日100 µGalオーダーのドリフトにより読み取り値が時間的に変化していることにより,同一測線で繰り返し測定を実施した場合,スケールについて見掛け上の時間変化が生じることが明らかになった(Onizawa, 2019).相対スケールで認識されていた時間変化は,このCG-5#033スケールの見掛け上の時間変化に起因すると解釈される.本検定データから読み取り値依存スケールファクター関係式を構築した.
2.3 検証
上述の検定測定により決定したスケールファクターについて,2018年11月の伊豆大島での合同観測において検証を行った.島内2ヶ所で測定された絶対重力値の差と,D#109,CG-5#033による相対測定結果を比較したところ,両重力計ともに1 µGalの差で合致し,非常に良好な結果が得られた.特に,CG-5#033については全く独立のデータから構築したスケールファクター関係式が本観測において有効であった意義は大きい.またD#109については,およそ1年半の間に,顕著なスケールファクターの時間変化が生じていないことが確かめられた.
3. 器械高補正における重力鉛直勾配の影響
MRIでは地殻変動,特に上下変動に伴う重力変化の定量化を目指し,測定点毎の鉛直勾配の実測を進めてきた.これまで測定してきた20か所以上の重力点において実測値は0.30から0.44 mGal/mの範囲に分布している.この鉛直勾配は,特にLCR重力計とScintrex重力計のように,基準位置から重力計内の錘の高さが異なる場合に,器械高補正においても重要な役割を果たす(Lederer, 2009).仮に,真の鉛直勾配が0.4 mGal/mの場所において,正規重力の勾配0.3086 mGal/mを用いて器械高補正を行った場合,器械高に約20 cmの差があるD#109とCG-5#033の2台の重力計の間には約20 µGalのオフセットが生じる.
2018年11月の合同観測において取得したデータに対し,鉛直勾配を実測した測定点においては,これを反映させた器械高補正を適用した.この結果,両重力計の差は約30 µGalの差の生じた2観測点を除き,全て14 µGal以内に収まった.
(謝辞)
国土地理院測地部の皆様には日本重力基準網について情報をご提供頂くとともに,検定測定のための便宜を図って頂きました.本研究は東京大学地震研究所共同利用(2018-G-12)の援助を受けました.記して感謝申し上げます.
伊豆大島火山のマグマ蓄積過程の解明および次期噴火の前駆現象の検出を目指し,気象庁気象研究所(以下,MRI)では相対重力計による繰り返し観測を実施してきた.2008年以降はLaCoste & Romberg D#109およびScintrex CG-5#033の2台を継続的に使用している.比較的高頻度の観測を実施しているものの,測定データには重力計スケールファクターをはじめとする相対重力測定に起因する不確定性を孕んでいた.測定精度が5~10 µGal程度とされる相対重力計において,個体差の影響を補正せずに火山活動に伴う数十µGalの微小な重力変化を検出すること,複数の相対重力計について齟齬のない測定結果を得ることは必ずしも容易ではない.一方,東京大学地震研究所(以下,ERI)は絶対重力計と相対重力計によるハイブリッド観測を実施してきた.両機関の利点を活かした伊豆大島の地下活動の解明と今後の協働体制を見据えて共同観測研究を開始した.
本発表では,主にMRIが所有する相対重力計について,絶対重力点でのスケール検定など個体差の補正に関して,共同研究の意義を交えながら報告する.
2. スケール検定
MRI所有の2台の重力計は,近年まで絶対重力点を用いたスケール検定が十分になされておらず,両者の相対的なスケールの把握に留まっていた.メーカ提供スケールファクターを用いた場合,相対スケールは時間と共に変化し10年間で約1,000 ppmにも達する.重力差が180 mGalを越える観測網において1,000 ppmもの時間変化がある限り,数十µGalの微小な重力変化を検出・議論することは不可能である.さらにD#109の低ダイアルレンジにおいて相対スケールは線形関係からずれているように見える.以上のことから,両重力計の絶対スケールとその時間変化の把握が必須であった.
2.1 D#109
2017年3月に伊豆大島の2ヶ所(重力差111 mGal)においてERIが実施した絶対重力測定結果を用いて,同年5月,6月にD#109の検定を行った.D#109の測定レンジは約240 mGal(ダイアルレンジ:200,スケールファクター:約1.2)のため,D型重力計のリセット機能を用い,同一測線にて高ダイアルレンジ,低ダイアルレンジの2回の測定を行った.この結果,メーカ提供値は高ダイアルレンジでは約10-4で合致したが,低ダイアルレンジにて大きくはずれ,相対スケールから示唆されていたメーカ提供値のずれが実測により確認された.このため,0~100の低ダイアルレンジについて,本検定データを用いて補正を行った.
2.2 CG-5#033
2012年から2017年にかけて,国土地理院が構築した日本重力基準網重力点を利用した検定測定を行ってきた.これらのデータを整理したところ,1) スケールファクターは測定場所や時間によらず,重力読み取り値に依存していること,このため読み取り値依存スケールファクターを導入すればスケール補正が可能であることがわかった.さらに,2) 1日100 µGalオーダーのドリフトにより読み取り値が時間的に変化していることにより,同一測線で繰り返し測定を実施した場合,スケールについて見掛け上の時間変化が生じることが明らかになった(Onizawa, 2019).相対スケールで認識されていた時間変化は,このCG-5#033スケールの見掛け上の時間変化に起因すると解釈される.本検定データから読み取り値依存スケールファクター関係式を構築した.
2.3 検証
上述の検定測定により決定したスケールファクターについて,2018年11月の伊豆大島での合同観測において検証を行った.島内2ヶ所で測定された絶対重力値の差と,D#109,CG-5#033による相対測定結果を比較したところ,両重力計ともに1 µGalの差で合致し,非常に良好な結果が得られた.特に,CG-5#033については全く独立のデータから構築したスケールファクター関係式が本観測において有効であった意義は大きい.またD#109については,およそ1年半の間に,顕著なスケールファクターの時間変化が生じていないことが確かめられた.
3. 器械高補正における重力鉛直勾配の影響
MRIでは地殻変動,特に上下変動に伴う重力変化の定量化を目指し,測定点毎の鉛直勾配の実測を進めてきた.これまで測定してきた20か所以上の重力点において実測値は0.30から0.44 mGal/mの範囲に分布している.この鉛直勾配は,特にLCR重力計とScintrex重力計のように,基準位置から重力計内の錘の高さが異なる場合に,器械高補正においても重要な役割を果たす(Lederer, 2009).仮に,真の鉛直勾配が0.4 mGal/mの場所において,正規重力の勾配0.3086 mGal/mを用いて器械高補正を行った場合,器械高に約20 cmの差があるD#109とCG-5#033の2台の重力計の間には約20 µGalのオフセットが生じる.
2018年11月の合同観測において取得したデータに対し,鉛直勾配を実測した測定点においては,これを反映させた器械高補正を適用した.この結果,両重力計の差は約30 µGalの差の生じた2観測点を除き,全て14 µGal以内に収まった.
(謝辞)
国土地理院測地部の皆様には日本重力基準網について情報をご提供頂くとともに,検定測定のための便宜を図って頂きました.本研究は東京大学地震研究所共同利用(2018-G-12)の援助を受けました.記して感謝申し上げます.