JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P18] 伊豆大島火山山頂火口噴出物の発泡組織と斑晶量変化 ー安永噴火と1986年噴火の比較ー

*池永 有弥1前野 深1安田 敦1 (1.東京大学 地震研究所)

キーワード:伊豆大島、噴出物密度、発泡度、斑晶量変化

伊豆大島は日本有数の玄武岩質の活火山で, これまでに多くの噴火を起こしてきた. 最後の噴火である1986年噴火では, 数日の間に山頂火口からのストロンボリ式噴火および溶岩流出と, 山腹火口からの準プリニー式噴火および溶岩流出が発生した (遠藤ほか 1988など). また1777年からは最後の大規模噴火である安永(Y1)噴火が発生し, 最初の約1年間の基底スコリア期には山頂火口からスコリア, 山腹火口から溶岩をそれぞれ噴出した(Nakamura 1964, 津久井ほか 2009).

スコリアを噴出した山頂噴火に着目すると, その特徴は噴火間で異なっている. Y1噴火の基底スコリア期には, カルデラ外までスコリアが厚く堆積し, 噴火が進むに従いマグマ中の斜長石斑晶量が増加していたこと, および噴火強度が増大していたことがわかっている(御園生ほか 2005, 池永ほか 2018 火山学会秋季大会). 一方1986年の山頂火口からの噴火では, 斜長石斑晶量はほとんど変化せず(藤井ほか 1988), スコリアの降下の大部分がカルデラ内に留まるような弱い噴火が継続した.

本研究では, Y1噴火と1986年噴火についてスコリアの密度計測および噴出物組織の観察を行い, 2つの噴火で比較を行った. またY1噴火については, Y1噴火の火口近傍相が観察できる1986年B2火口壁の露頭において, 斜長石斑晶量の変化を詳細に調査した.

スコリアの密度を計測した結果, Y1噴火の初期の噴出物(Unit A)と比べ, 後期の噴出物(Unit C)の方が高密度のスコリアを多く含んでいた. 一方1986年噴火のスコリアはY1噴火のいずれの時期のスコリアよりも低密度であった. 噴出物組織に着目すると, Unit Aのスコリアは小さい気泡に富み, 一部レティキュライトに近い状態のよく発泡したスコリアもあった. Unit Cのスコリアも小さい気泡を多く含むが, 気泡壁のガラスは比較的厚い. 1986年噴火のスコリアはY1噴火に比べ大きな気泡に富む. Unit Aに比べUnit Cの噴火強度が高いという地質観察に基づいた結果を踏まえると(池永ほか 2018 火山学会秋季大会), 噴火強度が高いUnit Cではマグマの発泡が十分進行する前に噴出し急冷したと考えられる一方で, 噴火強度が低いUnit Aではマグマの上昇中に気泡の形成と膨張が進んだ結果, 小さい気泡に富み気泡壁が薄いスコリアを形成したと考えられる. マグマの上昇速度がY1噴火よりも遅いと考えられる1986年噴火では, 気泡の膨張や連結がさらに進み大きな気泡に富むスコリアが形成された可能性がある.

Y1噴火の斜長石斑晶量については, 露頭の高さ方向に関してステップ状に変化することがわかった. またY1噴火の堆積物はいくつかの粒径が一定な層に区分でき, 斑晶量変化のステップは露頭における層境界と対応していることがわかった. 層境界が時間間隙を示していると考えると, 噴火開始からの経過時間に従って斜長石が増加するシステムがマグマだまりに存在することが示唆され, その結果として, 約1年にわたる安永噴火の基底スコリア期では斜長石斑晶量が増加した一方で, 主要な活動が数日間のみであった1986年の山頂噴火では斜長石斑晶量がほとんど変化しなかったと考えられる.