JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P27] 2015年10月23日のマグマ水蒸気爆発発生前にみられた空振パルスの波形解析

*小澤 佑人1横尾 亮彦1 (1.京都大学理学研究科)

キーワード:阿蘇山、空振パルス

マグマ水蒸気爆発は多数の火山岩塊を投出し、火口周辺域を壊滅的な状態にする危険な噴火現象であり、その発生を事前予測することが社会から要請されている。それには爆発発生前に火道内でどのような事象が進行しているのかを理解することが必要である。本研究では阿蘇山で発生したマグマ水蒸気爆発の数日前から観測された空振パルスの解析により、上記目的の達成に迫る。

 2015年10月23日未明に阿蘇山中岳第一火口において発生したマグマ水蒸気爆発の前には、火口周囲観測点で多数の空振パルスが観測された。この空振パルスは噴火発生の3日前から発生し始め、最大振幅は火口から200 mの地点で60 Paだった。当初は2分間に1度ほどであったパルス発生頻度は、日を追うごとに次第に高まっていった。マグマ水蒸気爆発発生の4時間前には、1分間あたり20回もの発生回数を記録した。阿蘇山で観測された空振パルス波形は、ストロンボリ火山でよく観測されるものに似ている。初めに1秒ほどかけて増圧し、正圧ピークをむかえたあとは、短い時間で減圧が進行して負圧となる。負圧最大振幅は正圧ピークの5-6割ほどである。その後は1秒ほどかけて振動を繰り返しながらもとの圧力へ復調する。空振パルスの卓越周波数は3-10 Hzほどであった。

 本研究では、ストロンボリ式噴火の空振波形発生で提唱されているVergniolle and Brandeis (1996)のモデルを用いて解釈を行なった。彼らのモデルは、火道内マグマ表面において大気泡のサイズ(半径)が時間変化する(振動する)ことで空振を発生させるものである。気泡形状は、上部を半球形、下部を円筒形と仮定しており、上部の半球部の半径が気泡内部のガス過剰圧により変化する。周囲流体密度、流体粘性、および平衡状態での気泡膜厚さを与え、モデル方程式を4次のルンゲクッタ法により解いた。繰り返し計算を行うことで、阿蘇での観測波形と計算波形の残差が最小となるように、気泡半径、長さ、ガス過剰圧の3パラメータを推定した。残差計算は空振パルスのスタート時刻から負圧最大振幅を取る時刻までの範囲で行なった。周囲流体密度は1000 - 3000 kg/m3(5通り)、粘性は10-3 - 103 Pa s(7通り)、気泡膜厚さは1- 10 cm(4通り)の値を用いた。

 10月22日22時41分07秒に観測された空振パルスの解析結果は次のようになった。観測波形と計算波形の残差が最小となったのは、周囲流体密度が2000 kg/m3、粘性が103 Pa s、気泡膜厚さが10 cmときであった。このとき、推定された気泡半径は0.21 m、長さは11 m(気泡体積は1.5 m3)、大気泡内部のガス過剰圧は1.2×106 Paである。気泡膜厚さの時間変化からは、膜厚が徐々に薄くなることによって気泡破裂が発生したものと考えられる。破裂時の膜厚は4 cmである。

 同様の解析を他の空振パルスに対しても実施することで、気泡の状態パラメータや火道内の周囲流体物性がどのように時間変化していったのかを推定できると考えている。これによって、マグマ水蒸気爆発の発生に向けた火道内状況の変化の様子をうかがい知ることにつながるだろう。