JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P36] ストロンボリにおける立体的な小規模空振アレイ観測の仰角推定性能

*山河 和也1市原 美恵1サンツェス クラウディア2池田 航1ラカンナ ジョルジョ2リペペ マウリツィオ2 (1.東京大学地震研究所、2.フィレンツェ大学地球科学科)

キーワード:空振、アレイ観測、火山

空振アレイ観測は空振信号の検出やその音源の制約を目的として活用されている.Yamakawa et al. (GRL, 2018) (以降はYMK2018と略記)は全長20 mの小アレイが実用的な到来方位角(Back Azimuth, BAZ)の分解能を持つことを報告したが,平面的な小アレイでは到来仰角(Back Elevation angle, BEL)の分解が難しいとして,仰角を固定して解析していた.仰角推定は多様なメカニズムで励起される空振の音源推定にて重要である.より高い仰角分解能を得る工夫として,アレイの立体化が考えられる.本研究では,3つの空振計を地面に,1つの空振計を地上1.9 mに配置する立体的な小アレイの観測実験を実施して性能を調べた.

実験は2019年6月20日から21日まで,YMK2018と同じ場所(イタリア,ストロンボリ火山山頂)で実施した(図a).次の3組の異なる空振計の組み合わせ(A, B, C)を解析・比較し,それぞれのアレイ形状の方向推定性能を調べた (図b).(A) 4つ全ての空振計を使う立体アレイ,(B) センサーM0を使わない地面に対して傾いた平面アレイ,(C) センサーM3を使わない,YMK2018の実験と類似した地面と平行な平面アレイ.

アレイ解析ではMUSIC法 [Schmidt, 1986] を用いた.0.25 Hzごとに中心周波数を設定し,0.5−40 Hzの帯域を(中心周波数±10 %)の狭帯域へ分割して解析した.空振の伝播速度は340 m/secを仮定した.MUSICスペクトルのピークを生成する方位角と仰角を読み取って到来方向(Direction of arrival, DOA)を推定した.

初めに,手持ちカメラの映像がある期間のデータを用いて方向推定精度の周波数依存性を調べた.映像から42個の爆発的噴火とその火口,そして爆発的噴火がなくPuffingのみが記録された24個の1分間時間窓を取り出し,解析した.平面アレイのMUSICスペクトルではアレイ平面を鏡面とする鏡像のピークが見られたが,立体アレイでは15 Hz以上の帯域にて鏡像の影響が抑制された.しかし15 Hz以上では,主に方位角軸方向に現れる空間エイリアシング由来のピークの影響が大きくなった.低周波数帯域と高周波数帯域を比較から,方位角は8 Hz以上,仰角は20 Hz以上で映像と整合的な方向へ推定されることが確認できた.鏡像やエイリアシングの影響を避けるため,以降の解析では火口方向に最も近いMUSICスペクトルピークを選び,信号の到来方向として扱った.

統計的な解析のため,映像のない時間帯から63個の爆発的な空振信号と,Puffing信号として48個の1分間時間窓を取り出した.その中から,より活動的だった3火口のどれかに推定される64個の信号と62個の1分間時間窓を選び,音源火口ごと,帯域ごとに方位角の標準偏差(Standard deviation, STD)を見積もった.3 Hz以下で標準偏差は急激に大きくなった(図c1,c2)が,1 Hzまでは±20° の範囲で到来方向が制約できた.3火口の信号の3 Hz以上の全ての帯域で計算された方位角,仰角の標準偏差を集めてヒストグラムを作ったところ,形状Aの方位角,仰角の標準偏差は90%以上がそれぞれ2.2° 以下,3.9° 以下に分布すること,形状Bでも同様だが,形状Bの標準偏差はAより少し大きいこと,形状Cの標準偏差はA,Bに比べて大きく,90%の標準偏差の範囲は方位角が2.8° 以下,仰角が7.4° 以下であることが分かった(図d1,d2).また,火口によってはパワースペクトル密度が小さくなる帯域が見られ(図c3),その帯域では標準偏差が形状AとBでは6° まで,形状Cでは10° まで大きくなった.さらに,平面アレイでの仰角推定ではアレイ平面のdipと同じ仰角に推定が集中してしまうことがあることが分かった.

到来方向は周波数にのみ依存して系統的に遷移することがあった.特に3−5 Hzの帯域では,活動的な3火口のどの空振でも同じ方向に,かつどの火口からも10° 以上離れた方向に遷移して推定され(図c1,c2),この遷移はその帯域における標準偏差よりも有意に大きかった.また,理想的な時間差を持つ信号を使った数値テストではランダムなノイズを加えてもこの遷移が再現できなかった.この遷移の原因を今後探る必要がある.

アレイ形状を比較すると,形状AとBの性能は似ており,それらは形状Cに比べて高い仰角分解能を持っていた.これはアレイ平面のdipが音源の仰角に対して傾いていたためと考えられる.以上から,上空2 m程度のアレイ立体化であっても,仰角推定の性能を向上させられることが確かめられた.