JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P40] 落下速度観測から推定された桜島ブルカノ式噴火の降下火山灰の噴煙分離高度分布

*瀧下 恒星1井口 正人2Poulidis Alexandros P.2園田 忠臣2 (1.京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻、2.京都大学防災研究所火山活動研究センター)

キーワード:分離高度分布、ディスドロメータ、ブルカノ式噴火、桜島、パーシベル

火山噴火による降灰量は,風速場と火山灰粒子の粒径から推定される終端速度に基づいて,移流拡散モデルを用いた研究により予測されてきた。このモデルは,火山灰の供給源である噴煙から火山灰粒子が分離して地表に到達するまでの移流,拡散,降下の各過程を考慮して降灰量分布を計算するモデルである。入力パラメータのうち,噴煙高度,火山灰の総重量,風速場,粒径などは観測に基づいて与えられ,数十kmから数百kmのスケールで降灰量分布の概形が再現できているが,火口周辺での数kmスケールの降灰量分布は適切に再現できていない。
火口周辺の高精度な降灰予測を行うには,観測に基づいた噴煙の高度方向の不均質性に関する知見が不足している。噴煙の高度方向の不均質性を表すパラメータは噴煙からの火山灰重量の分離高度分布(以下「分離高度分布」)である。先行研究はいずれも大規模なプリニー式噴火を対象としており,事例研究にとどまっている(たとえば,伊豆大島1983年噴火(Mannen, 2014, JVGR))。小規模なブルカノ式噴火は,高頻度で法則性を研究するのに適しているにもかかわらず,観測手法の限界から対象とされてこなかった。本研究では,桜島のブルカノ式噴火を対象に,高時間分解能な降灰量観測を行い,移流拡散モデルを適用して計算される降灰量を比較して,分離高度分布を推定した。
火山灰粒子の観測には,粒子ごとの粒径と落下速度を測定するディスドロメータを用いた。島内17地点における降灰量は粒径,落下速度の組み合わせごとの粒子数から経験式によって求めた。また,計算には移流拡散モデルTephra2 (Bonadonna et al., 2005)を改良した粒子群追跡型の移流拡散モデルを実装して用いた。Tephra2は,火山灰粒子の粒径と分離高度を離散化した上で,均質な分離高度分布をもつ噴煙から分離した粒子群を水平一様な風速場において,粒径から見積もられる終端速度を考慮して粒子群重心を追跡し,粒子群の拡散を水平方向へのガウス分布で確率的に与える。筆者らはこれを,粒径分布を観測量である終端速度分布におき替えたうえで,地形を考慮して空間三次元の不均質性と時間変化に対応する気象場(風速場3成分,大気密度)および任意の分離高度分布を与えられるモデルに発展させた。また,それぞれの速度を代表する形状の仮想的な粒子を落下させたときの,大気密度変化に伴う終端速度変化を考慮した。
噴煙頂高度が火口上1400mから4700mまでの6つのブルカノ式噴火を解析して得られた火山灰粒子の分離高度分布はいずれも2つの重量集中区間を持つバイモーダルな分布だった。上部の重量集中区間は噴火開始直後に爆発的に形成されたきのこ型の噴煙柱上部の傘の部分に相当し,下部の重量集中区間はプリニー式噴火でも見られる準定常的に噴出した柄の部分に相当すると考えられ,質量噴出率の時間変化が分離高度分布を制約することが示唆された。