JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山防災の基礎と応用

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、久保 智弘(山梨県富士山科学研究所)

[SVC46-P06] 火山における登山者動向・動態データの防災利用

*宮城 洋介1中田 節也1吉本 充宏2久保 智弘2本多 亮2 (1.防災科学技術研究所、2.富士山科学研究所)

キーワード:次世代火山研究推進事業、火山災害対策技術、登山者動向・動態データ

2016年に始まった文部科学省による「次世代火山研究推進事業」は、これまで日本の火山研究において主に行われてきた観測研究・予測研究に加えて「対策研究」を一体的に行うことを目指したプロジェクトである。防災科研では本プロジェクトの主課題の一つである「火山災害対策技術の開発」の課題責任機関として、「火山災害対策のための情報ツールの開発」というサブテーマで対策研究を進めている。この「情報ツール」は目的や用途の異なる複数のコンテンツから成り、ユーザーとして想定する自治体防災担当者が平時及び災害発生時に必要な情報を取得し、適切な初動対応及びそのための事前防災活動を行うことを支援するものである。
 多くの犠牲者を出した2014年9月の御嶽山噴火災害では、登山者の動向・動態(※ここでは、「おおよその数」と「大まかな位置」)を把握することが難しく、避難指示や救助・捜索活動に際し困難が生じたとされる。昨今日本国内では登山ブームにより多くの登山者が登山を楽しんでいるが、富士山をはじめとして火口近傍まで登山者が近づくことのできる火山が日本国内には多数存在する。そのような火山で噴火が発生した場合御嶽山同様深刻な被害が予想されるが、その際に登山者の動向・動態を把握することはその後の避難や救助、捜索活動に際して適切な判断をするために重要である。
 この登山者の動向・動態データを取得する実証実験が、2015年から富士山で、2019年には御嶽山で多くの登山者の協力のもと行われた(富士山チャレンジ、御嶽山チャレンジ)。これらの実験では登山者に小型のビーコンを配布し、登山道に設置したレシーバーで検知・認識をすることで、ビーコンを持った登山者の数と位置をリアルタイムで把握することが可能となる。データ自体は混雑状況の把握や行動特性の把握などに利用でき、例えば2018年の実験では3000人の登山者の数と位置を把握する時間を計測したところ約2時間で確認することができた。
 本研究ではこれら実証実験で得られた登山者の動向・動態データの防災利用を目指している。すなわち噴火災害発生時に登山者の数や位置を把握する時間を短縮することで、避難や救助・捜索活動の効率化が期待される。また同データとハザードシミュレーションを組み合わせて人的被害推定を行うことで、平時における事前防災への取組みとして自治体等が避難計画(避難施設や避難指示看板の設置、避難経路の指定など)を作成する際や防災訓練の想定を作る際に参考情報として利用することが可能となる。
 本研究で開発を進めている情報ツールでは、得られた登山者の動向・動態データをインプットデータとして地図上で可視化し、他の情報(登山道や避難施設、ハザード情報等)と重ねて表示することが可能となっている。現在ある富士山と御嶽山における登山者動向・動態データを使い、富士山及び御嶽山周辺自治体に対して事前防災への取組みを推進している。また今夏には那須岳でも登山者の動向・動態データ取得が予定されており、同様に那須岳主変自治体に対しても本ツールを使った防災活動を進めて行く予定である。