[SVC47-08] 榛名火山で45ka〜10kaに生成した溶岩ドーム群のマグマ供給系と噴火誘発過程—5〜7世紀の二ツ岳の2噴火との比較—
キーワード:榛名火山、溶岩ドーム、マッシュ状珪長質マグマ、マグマ混合、高温マグマによる加熱、噴火誘発
榛名山は東北日本孤最南端に位置する活火山である。約50万年間に、苦鉄質マグマによる成層火山体の形成と破壊と、その後の珪長質マグマの活動が起きている。下司・竹内(2012)は榛名火山の活動に約20万年間の休止期を見出し、古期(〜240ka)と新期(45ka〜)に分類した。榛名火山の全活動期に対し、下司・竹内(2012)の他、高橋・他(2016)が、噴出物の全岩化学組成を報告している。しかし記載岩石学的特徴や斑晶鉱物組成データを用いた、マグマ供給系や、噴火誘発過程に関する検討が不足している。例外はSuzuki and Nakada (2007, J. Petrology)による榛名火山最新の活動(6世紀後半〜7世紀初頭;二ツ岳伊香保噴火)の研究である。以上を踏まえ、新期活動全体を対象とした研究を進めている(鈴木・他, 2018; 鈴木・福島, 2019; 丸山・鈴木, 2019; 木谷・鈴木, 2019; 岡野・鈴木, 2019)。本研究は45ka〜10kaに生成した溶岩ドーム(榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山)を対象にしている。それらの全岩化学組成・記載岩石学的特徴・斑晶組成を、二ツ岳伊香保噴火のデータと比較した。なお鈴木・福島(2019)は、二ツ岳伊香保噴火の約50年前に起きた二ツ岳渋川噴火の低温マグマが、伊香保噴火の低温マグマと良く似ていることを指摘している。
テフラとの層位関係により、榛名富士と蛇ヶ岳は45〜29ka、相馬山は20〜15ka、水沢山はおよそ10kaの活動と考えられている(下司・竹内, 2012)。古い4つの溶岩ドーム噴火の噴出総量は各々0.06〜0.3km3の間にあるが(榛名富士と蛇ヶ岳は合算値)、二ツ岳伊香保噴火は約1.0km3である(山元, 2013)。4つの溶岩ドーム噴火の試料は、そのほとんどが溶岩ドームから直接採取された溶岩だが、水沢山については火砕流もしくは崖錐堆積物に含まれる溶岩ブロックも使用した。溶岩には暗色包有物が含まれることがあるので、包有物以外の部分をホストと呼ぶ。ホストのサンプル数は24(榛名富士5、蛇ヶ岳4、相馬山8、水沢山7)、暗色包有物は4(榛名富士3、水沢山1)である。
Suzuki and Nakada(2007)は二ツ岳伊香保噴火について、マッシュ状珪長質マグマ(SiO2=60.5〜61.5 wt.%; 820-850℃)に苦鉄質マグマ(SiO2=51〜53wt.%; 1150℃)が注入した結果、加熱もしくはマグマ混合によりマッシュが再流動化し、噴火が誘発されたと提案した。榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山の古い4つの溶岩ドーム噴火でも、2端成分マグマが関与し、また似たような噴火誘発機構が働いていることがわかった。4つの溶岩ドーム噴火のホスト(バルクでSiO2=59.5〜64.5 wt.%)は、斜長石+斜方輝石+角閃石+Fe-Ti酸化物+石英の斑晶を含み、SiO2含有量最小の相馬山の1サンプル(SiO2=59.5 wt.%)ではカンラン石斑晶も確認された。低温端成分に由来するのはカンラン石を除く全ての斑晶種である。斜長石・斜方輝石・角閃石に対しEPMA分析を行った(Fe-Ti酸化物は全て離溶)。コア組成は4つの溶岩ドームの間で差はない。斜長石はAn50-85, 0.2-0.35 wt.% FeO,〜0.03 wt.% MgO。斜方輝石は、Mg# 63.5〜67.5, Wo 0.8〜1.9。角閃石はSi 6.42〜7.16, Mg# 0.73〜0.84である。これらは二ツ岳伊香保の鉱物データとも類似している。角閃石コアにPutirka (2016)の温度計・共存メルトSiO2量計を適応すると、<850℃, SiO2=68-72 wt.%となった。温度は、Suzuki and Nakada (2007)が二ツ岳伊香保噴火の低温端成分(白色軽石)に対しFe-Ti酸化物温度計で見積もった値と一致する。斜長石・斜方輝石についてはリムの分析も行えた(角閃石リムは分解)。ホストのバルクのSiO2量が低いほど、リムでのMg#やWo値の上昇(斜方輝石)やFeOやMgOの上昇(斜長石)が顕著で、上昇を示す斑晶の比率も増加する。ホストのバルクのSiO2量が63 wt.%程度になると、これらの上昇はほとんど見られない。以上より4つの溶岩ドーム噴火においては、低温マグマ(マッシュ)は共通であるが、噴火直前の高温マグマの影響の程度に応じ、最終産物(ホスト)の全岩組成差が生まれたといえる。またSiO2量が63 wt.%程度以上の溶岩は、マグマ混合や加熱の影響をほとんど受けていないものとみなせる。
低温端成分マグマのバルク組成は、古い4つの溶岩ドーム噴火と、二ツ岳伊香保噴火で異なるようである。二ツ岳伊香保噴火の珪長質端成分(白色軽石)のバルク組成は、SiO2=60.5〜61.5 wt.%である。古い4つの溶岩ドーム噴火における珪長質端成分は、前述のようにSiO2量が63 wt.%以上と推定される。斑晶のコア組成から珪長質端成分マグマの源物質は古い4つの溶岩ドームの活動(〜10ka)と二ツ岳の活動で似ていると推定される。バルク組成の差は、珪長質端成分マグマの貯蔵系の温度・圧力条件の違いを反映している可能性がある。二ツ岳渋川噴火・伊香保噴火の低温端成分に石英が乏しいことは、融点の低い石英が融解したことを反映している可能性がある。
高温端成分マグマに関しても、古い4つの溶岩ドーム噴火と二ツ岳伊香保噴火の間に類似点が確認された。暗色包有物のバルク組成はSiO2=50.9〜55.1 wt.%である。暗色包有物はホスト形成に関与した2端成分マグマの混合物である。暗色包有物のうちSiO2が低いものは低温端成分の影響は少ないが、そのバルク組成はSuzuki and Nakada (2007)が二ツ岳伊香保噴火に対してモデル計算で求めた高温端成分のSiO2含有量(約52 wt.%)と類似している。暗色包有物の一部と相馬山のホスト(SiO2=59.5 wt.%)には、高温端成分由来のカンラン石が確認される。これらカンラン石のMg#は78〜80.5であり、Suzuki and Nakada (2007)が二ツ岳伊香保噴火の混合産物について報告した値(Mg#77.8〜79.9)と類似している。暗色包有物に含まれる角閃石斑晶は低温端成分マグマに由来したものであるが、そのリムはマグマ混合後に晶出した。リムはPutirka (2016)の温度計・メルトSiO2量計で、880〜940 ℃、59〜67wt.%の値を示す。これらは端成分マグマの温度やメルト組成と矛盾しない。
テフラとの層位関係により、榛名富士と蛇ヶ岳は45〜29ka、相馬山は20〜15ka、水沢山はおよそ10kaの活動と考えられている(下司・竹内, 2012)。古い4つの溶岩ドーム噴火の噴出総量は各々0.06〜0.3km3の間にあるが(榛名富士と蛇ヶ岳は合算値)、二ツ岳伊香保噴火は約1.0km3である(山元, 2013)。4つの溶岩ドーム噴火の試料は、そのほとんどが溶岩ドームから直接採取された溶岩だが、水沢山については火砕流もしくは崖錐堆積物に含まれる溶岩ブロックも使用した。溶岩には暗色包有物が含まれることがあるので、包有物以外の部分をホストと呼ぶ。ホストのサンプル数は24(榛名富士5、蛇ヶ岳4、相馬山8、水沢山7)、暗色包有物は4(榛名富士3、水沢山1)である。
Suzuki and Nakada(2007)は二ツ岳伊香保噴火について、マッシュ状珪長質マグマ(SiO2=60.5〜61.5 wt.%; 820-850℃)に苦鉄質マグマ(SiO2=51〜53wt.%; 1150℃)が注入した結果、加熱もしくはマグマ混合によりマッシュが再流動化し、噴火が誘発されたと提案した。榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山の古い4つの溶岩ドーム噴火でも、2端成分マグマが関与し、また似たような噴火誘発機構が働いていることがわかった。4つの溶岩ドーム噴火のホスト(バルクでSiO2=59.5〜64.5 wt.%)は、斜長石+斜方輝石+角閃石+Fe-Ti酸化物+石英の斑晶を含み、SiO2含有量最小の相馬山の1サンプル(SiO2=59.5 wt.%)ではカンラン石斑晶も確認された。低温端成分に由来するのはカンラン石を除く全ての斑晶種である。斜長石・斜方輝石・角閃石に対しEPMA分析を行った(Fe-Ti酸化物は全て離溶)。コア組成は4つの溶岩ドームの間で差はない。斜長石はAn50-85, 0.2-0.35 wt.% FeO,〜0.03 wt.% MgO。斜方輝石は、Mg# 63.5〜67.5, Wo 0.8〜1.9。角閃石はSi 6.42〜7.16, Mg# 0.73〜0.84である。これらは二ツ岳伊香保の鉱物データとも類似している。角閃石コアにPutirka (2016)の温度計・共存メルトSiO2量計を適応すると、<850℃, SiO2=68-72 wt.%となった。温度は、Suzuki and Nakada (2007)が二ツ岳伊香保噴火の低温端成分(白色軽石)に対しFe-Ti酸化物温度計で見積もった値と一致する。斜長石・斜方輝石についてはリムの分析も行えた(角閃石リムは分解)。ホストのバルクのSiO2量が低いほど、リムでのMg#やWo値の上昇(斜方輝石)やFeOやMgOの上昇(斜長石)が顕著で、上昇を示す斑晶の比率も増加する。ホストのバルクのSiO2量が63 wt.%程度になると、これらの上昇はほとんど見られない。以上より4つの溶岩ドーム噴火においては、低温マグマ(マッシュ)は共通であるが、噴火直前の高温マグマの影響の程度に応じ、最終産物(ホスト)の全岩組成差が生まれたといえる。またSiO2量が63 wt.%程度以上の溶岩は、マグマ混合や加熱の影響をほとんど受けていないものとみなせる。
低温端成分マグマのバルク組成は、古い4つの溶岩ドーム噴火と、二ツ岳伊香保噴火で異なるようである。二ツ岳伊香保噴火の珪長質端成分(白色軽石)のバルク組成は、SiO2=60.5〜61.5 wt.%である。古い4つの溶岩ドーム噴火における珪長質端成分は、前述のようにSiO2量が63 wt.%以上と推定される。斑晶のコア組成から珪長質端成分マグマの源物質は古い4つの溶岩ドームの活動(〜10ka)と二ツ岳の活動で似ていると推定される。バルク組成の差は、珪長質端成分マグマの貯蔵系の温度・圧力条件の違いを反映している可能性がある。二ツ岳渋川噴火・伊香保噴火の低温端成分に石英が乏しいことは、融点の低い石英が融解したことを反映している可能性がある。
高温端成分マグマに関しても、古い4つの溶岩ドーム噴火と二ツ岳伊香保噴火の間に類似点が確認された。暗色包有物のバルク組成はSiO2=50.9〜55.1 wt.%である。暗色包有物はホスト形成に関与した2端成分マグマの混合物である。暗色包有物のうちSiO2が低いものは低温端成分の影響は少ないが、そのバルク組成はSuzuki and Nakada (2007)が二ツ岳伊香保噴火に対してモデル計算で求めた高温端成分のSiO2含有量(約52 wt.%)と類似している。暗色包有物の一部と相馬山のホスト(SiO2=59.5 wt.%)には、高温端成分由来のカンラン石が確認される。これらカンラン石のMg#は78〜80.5であり、Suzuki and Nakada (2007)が二ツ岳伊香保噴火の混合産物について報告した値(Mg#77.8〜79.9)と類似している。暗色包有物に含まれる角閃石斑晶は低温端成分マグマに由来したものであるが、そのリムはマグマ混合後に晶出した。リムはPutirka (2016)の温度計・メルトSiO2量計で、880〜940 ℃、59〜67wt.%の値を示す。これらは端成分マグマの温度やメルト組成と矛盾しない。