JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 火山・火成活動および長期予測

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC47-12] 古地磁気方位と永年変化を利用した大規模カルデラ噴火の継続時間の推定:姶良カルデラとMamaku/Ohakuri ignimbritesの例

*長谷川 健1望月 伸竜2Gravley Darren3楠 稚枝1岡田 誠1下司 信夫5Kosik Szabolcs4柴田 翔平1金田 泰明1 (1.茨城大学理工学研究科、2.熊本大学 大学院先端科学研究部、3.Canterbury大学、4.Massey大学、5.産総研地質調査センター)

キーワード:カルデラ、古地磁気学的研究、地磁気エクスカーション

(はじめに)
 噴出量100 km3を超える火砕物を放出してカルデラを形成するような噴火は,歴史上の観測例がないが,将来のリスク評価や防災対策を考える上でも,前兆~終息に至る詳しいプロセスの解明が求められる.最近の著者らの研究では,地質学的に一連(数日~長くても数年)と考えられてきた鬼界カルデラや支笏カルデラ形成噴火の堆積物に対して,古地磁気方位と地磁気永年変化を利用した手法を適用し,複数の火砕流ユニット間に数十年~百年オーダーの時間間隙がある可能性を指摘している[1],[2].本研究では,同古地磁気学的手法を用いて,国内外を代表する2つの大規模カルデラ噴出物を対象に,噴火の継続時間スケールや堆積プロセスなどを検討したので速報する.

(手法)
 国内では,約3万年前に発生した九州の姶良カルデラ形成噴出物(総噴出量400km3以上)を対象とし,下位から大隅降下軽石(OS),垂水火砕流(TM),入戸火砕流(溶結部)(IT)を採取した.海外ではニュージーランド,Taupo火山帯のRotoruaおよびOhakuriカルデラから約24万年前に,指交するように噴出したMamaku/Ohakuri ignimbrites[3]を対象とした.Mamaku/Ohakuri ignimbrites(総噴出量250 km3以上)は,給源カルデラにかかわらず,下位からUnit, Unit 1~Unit 6と命名されている.今回は粗粒なUnit2と 3以外の全ユニットから試料を採取した.姶良カルデラ形成噴出物もMamaku/Ohakuri ignimbritesも,構成ユニット間に土壌層などの顕著な時間間隙の証拠は見られない.
ドリルが適用できないような軟弱な火砕物に対しては,専用の治具を用いて精度よく定方位サンプリングを行った.各ユニットにつき8試料以上を採取し,約630°Cまでの段階熱消磁および100mT程度までの段階交流消磁を行って,古地磁気方位を測定した.消磁曲線において,概ね原点へ向かって直線的に減衰する,連続した5段階以上の点に対して主成分解析を適用し,得られた方位のうち最大角分散15°未満のものを各試料の特徴的残留磁化方位とした.一つのユニットの8試料以上の特徴的残留磁化方位から,平均方位とその95%信頼限界(α95)を得て,等積投影図上で半径α95の円がユニット間で重なるかどうかを評価(重ならない場合は時期が異なると判断)した.なおα95は2°~10°の範囲にすべて収まった.

(結果)
姶良カルデラ噴出物:OS,TMの平均方位(偏角5~10°,伏角47~52°)は区別できない.ITは,既報データ(溶結部:4試料)[4]を含めても,ほとんどの平均方位が偏角10~15°,伏角45~52°の範囲を示し,OS, TMと区別できない.しかし,本研究において給源北方近傍の国分で採取した1サイト(IT2:強溶結部)がOS, TMおよび大部分のITとα95レベルで異なる方位を示す.したがって,入戸火砕流の中に時間間隙を挟む別ユニットが存在した可能性が示唆されるが,今後,傾動の可能性などを詳しく検証する必要がある.なお大隅降下軽石の試料は,給源近傍の牛根麓で,径20cm以上の複数礫の中心部から採取したが,いずれも500°C以上のアンブロッキング温度を示し,残留磁化方位も揃うことから,高温で定置したことが分かる.
Mamaku/Ohakuri ignimbrite:いずれの平均方位も,採取地点の地軸双極子磁場方位(偏角0°,伏角-57°)から,大きく離れ,先行研究[5]でも指摘された通り,地磁気エクスカーションの期間に発生したと考えられる.さらにこれらは,Unit 1とUnit 4の間,Unit 4とUnit 5の間で方位が20°前後異なり,明瞭な時間間隙が存在したと判断できる.エクスカーションの期間(多くは数千年以下)は,通常時の永年変化よりも地磁気極の移動速度は速いと推測される.仮に,2000年間に180~360度分の方位変化が起きたとするならば,1年あたり0.1~0.2度の方位変化量であり,これに基づくと,Unit 1とUnit 4の間およびUnit 4とUnit 5の間には,それぞれ100~200年程度の時間間隙が示唆される.

(引用)[1] 長谷川ほか, 2018, 地学雑誌, 273-288.[2] 望月ほか, 2018, JpGU, SEM17-09. [3] Gravley et al., 2007, GSA Bulletin, 18-30. [4] 中島・藤井, 1995, 第四紀研究, 297–307.[5] Tanaka et al., 1996, Geophysical Journal International, 919–934.