JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 火山・火成活動および長期予測

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC47-P08] 三宅島火山,南部地域における坪田期(4.0〜2.5 ka)の噴火層序とマグマ組成の特徴

*渡部 将太1長谷川 健1及川 輝樹2下司 信夫2 (1.茨城大学大学院 理工学研究科、2.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:三宅島火山、噴火層序、マグマ組成

三宅島火山は,20世紀以降,約20年周期で噴火を繰り返している活動的な火山である.三宅島火山の最近1万年間の活動は,噴火の頻度や活動様式の違い,噴出物の化学組成に基づき,約10〜4 kaの大船渡期(約7〜4 kaの静穏期を含む),坪田期(約4〜2.5 ka),雄山Ⅰ期(約2.5〜1.3 ka),雄山Ⅱ期(約1.3 ka〜AD 1469),新澪期(AD 1469〜AD 1983)に区分されている(新堀・他,2003).約2.5 ka以降の噴火層序は詳しく研究されているが,それ以前については噴出物の記載例は少ない.特に坪田期は,静穏期後,現在まで続く活動の最初期にあたり,本火山の中でも比較的分化した安山岩を産出する特徴を持つことから,本火山の長期的噴火推移やマグマ変遷を理解する上で重要と言える.坪田期噴出物の分布は三宅島の北西部と南部に限られ(津久井・他,2005),北西部の噴出物は比較的詳しく研究されているが,南部の噴出物は未区分噴出物とされており不明点が多い.そこで我々は,坪田期の噴火層序構築を目的として南部の未区分噴出物に注目し,地質記載,放射性炭素年代測定,本質物質の岩石記載および全岩化学組成分析を行った.その結果,新たに未記載の噴出物を整理し,それらのマグマ組成についても新たな見解が得られたので報告する.

 我々が調査した三宅島の南部地域では,水平方向に約3 km(代表的な露頭は西から約1 kmごとに龍根,鶴根岬,長太郎池,坪田),高さ約10〜60 mの海食崖にほぼ連続的に噴出物が露出している.この海食崖について地質記載を行い,上位にあたる約2.5 kaの八丁平噴出物と放射性炭素年代値を指標にして坪田期噴出物を認識した.これらを地形,層相,本質物質の岩石学的特徴から対比し,少なくとも5つの坪田期噴出物を認識した.全ての噴出物の間には,風化火山灰層や侵食面などの時間間隙を示す証拠が認められる.以下,これらを南部坪田期噴出物(TbS-1〜5)とする.調査地域の西部にあたる龍根では下位からTbS-1,4,5が,東部にあたる鶴根岬〜長太郎池では下位からTbS-1,2,3が認識できる.

 TbS-1は降下スコリアとそれを覆う火砕サージ堆積物から構成される.降下スコリアは鶴根岬付近で層厚200 cm以上であり,層中に含まれる炭化木から約3,200 yBPの放射性炭素年代が得られている.上位の火砕サージ堆積物は鶴根岬では層厚10 m以上の凝灰角礫岩層からなり,長太郎池付近では火山礫凝灰岩層へ推移する.鶴根岬に向かって層厚が増大すること,サグ構造の方向,デューンの成長方向から判断される流向から,鶴根マール(津久井・鈴木,1998)付近に給源を持つと推定される.TbS-2は暗灰色部と灰色部の混交する溶岩流で,直下の土石流堆積物中の炭化木片から約2,600 yBPの放射性炭素年代が得られている.TbS-3は灰色溶岩流,TbS-4,5は暗灰色溶岩流である.

 本質物質の多くは斑晶量6 vol.%以下で,斑晶鉱物組み合わせは主に斜長石,単斜輝石,直方輝石,不透明鉱物であるが,TbS-5にはごく少量のかんらん石が含まれる.TbS-2の灰色溶岩とTbS-3は安山岩(SiO2 = 58.0〜59.0 wt.%)で,それ以外の噴出物は玄武岩質安山岩(SiO2 = 52.9〜54.8 wt.%)である.また安山岩の全岩Mg# ( = 100×Mg / (Mg+Fe))は31.2〜32.9で,玄武岩質安山岩は36.8〜43.2と比較的高い.

 層相,層位関係,分布および岩石学的特徴から,南部坪田期噴出物はいずれも津久井・鈴木 (1998)で記載された6層の坪田期噴出物とは対比されず,未記載の噴出物であると考えられる.津久井・鈴木 (1998)で記載された噴出物と本研究による南部坪田期噴出物を合わせて,少なくとも11回の噴火が4,000〜2,500 yBPの期間に認められることから,坪田期全体の噴火の頻度は,100年間に約0.73回以上と推定される.今後の研究で認識できる噴火の回数が増える可能性もあるが,この値は三宅島火山の他の活動期に比べると低い(例えば,新澪期:約2.53回).

 新堀・他 (2003)は,三宅島火山の大船渡期を除く活動期の初期に全岩Mg#の急激な上昇とその後の時間経過に伴う減少というサイクルを見出した.坪田期噴出物もその例外ではないが,主に安山岩(55.9〜63.2 wt.%)からなり,比較的分化した低い全岩Mg#(28.9〜38.8)で特徴づけられている.坪田期の直後である約2.5 kaの八丁平噴火では,全岩Mg#の急激な上昇(約33〜42)が認められ,比較的未分化なマグマの供給が考えられている.しかし,坪田期後期にあたる約2,600 yBPと約3,200 yBPにも,それぞれ全岩Mg# = 40.7,43.2と未分化なマグマが噴出していることが明らかになった.したがって,比較的分化したマグマだけが活動したと考えられていた坪田期にも,未分化なマグマの活動があったと考えられる.さらに,TbS-2溶岩流の暗灰色部と灰色部の混交構造は,未分化なマグマと分化したマグマの混合プロセスの存在を示唆する.



引用文献:

新堀ほか (2003) 火山,48,387-405.

津久井・鈴木 (1998) 火山,48,387-405.

津久井ほか (2001) 地学雑,110,156-167.

津久井ほか (2005) 火山地質図,産総研.