JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-05] 人新世・第四紀の気候および水循環

コンビーナ:Chuan-Chou Shen(High-Precision Mass Spectrometry and Environment Change Laboratory, Department of Geosciences, National Taiwan University)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、窪田 薫(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)、Li Lo(Department of Geosciences, National Taiwan University)、座長:Chuan-Chou Shen(High-Precision Mass Spectrometry and Environment Change Laboratory, Department of Geosciences, National Taiwan University)、Chairperson:横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、Chairperson:窪田 薫(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、座長:Li Lo(Department of Geosciences, National Taiwan University)

[U05-01] 石筍同位体の意味

★招待講演

*狩野 彰宏1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:石筍、酸素同位体比、古気候

石筍酸素同位体記録は世界中から報告されており後期第四紀のモンスーン降水強度により説明されている。例えば,夏に雨が多い中国からの記録は東アジア夏季モンスーン (EASM) の喧嘩を意味する。しかし,他の要因も石筍酸素同位体に反映されるという反論もある。

広島・岐阜・三重県で採集された石筍は中国石筍と似た酸素同位体比の傾向を示すが,その変化幅ははるかに小さい。三重石筍の過去8.3万年間の記録は海水酸素同位体と良く一致する点で特徴的である。これは三重の洞窟に降る降水のソースが太平洋の海水であることを考えると当然のことと言える。海水同位体の変動を差し引くと,三重石筍の変化は温度変化でほぼ説明がつき,中期完新世と最終氷期の温度差は9ºC,ハインリッヒイベントでの寒冷化の幅は3ºC以下と見積もられる (Mori et al. 2018)。すなわち,EASM強度は日本の石筍酸素同位体比にあまり影響しない。

新潟県で採集された石筍も海水酸素同位体比の重要性を示す。洞窟がある糸魚川市では,日本海から供給された水蒸気が冬に大量の雪をもたさし,それが特異的な石筍記録に反映される。最終氷期の極端に低い酸素同位体比は温度低下でも強まった東アジア冬季モンスーンでも説明がつかない。最もありえそうな要因は海洋堆積物からも指摘されている氷期における日本海表層海水の酸素同位体比の低下であり,太平洋の記録と比較すると,その低下幅は約3‰であった。

モンスーン強度の効果,すなわちamount effectは日本の石筍記録では疑わしく,中国の記録でも再評価されるべきであろう。中国石筍の解釈の中で軽視されてきた要因に大陸度,すなわち大陸からの距離がある。東シナ海の中国側は浅い陸棚なので,中国洞窟の大陸度は海水準に対して敏感であり,石筍同位体の変化幅を増幅する。