JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-08] Special session for a borderless World of Geoscience (GEOethics)

コンビーナ:川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、Brooks Hanson(American Geophysical Union)、古村 孝志(東京大学地震研究所)、田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、Chairperson:古村 孝志(東京大学地震研究所)

[U08-03] 不確実性を伴う気象予測情報をいかに有効に利用するか?

★招待講演

*中村 尚1 (1.東京大学先端科学技術研究センター)

キーワード:予報・予測、不確実性

今日,天気予報は私たちの日々の暮らしに欠かせない情報となっている,これは,70余年前に開発された電子計算機の最初の活用例の1つとなった数値天気予報が,その後の計算機能力の飛躍的な向上に加え,衛星観測網の拡充やデータ同化技術の飛躍的進展によってその精度は格段に向上したからである.予報の範囲も1日先から週間予報,さらには1ヶ月・季節予報にまで拡がり,今や人々の生活と全産業分野に不可欠な基盤的社会インフラとなっている.

 超多次元の非線型複雑系である大気循環系の振る舞いはカオス的で,初期場に含まれる僅かな誤差が予報時間とともに徐々に増幅し,10日も経てば予報精度は格段に低下してしまう.よって,1週間より長い延長予報や季節予報では,初期場に微小な誤差を人為的に加えた場を数多く作成し,それらを並行して予報するアンサンブル予報が不可欠となっている.この本質は確率予報であり,不確実性の指標としてのメンバー間の予報のばらつきは応用上極めて重要な情報を提供している.なお,予報精度が高い短時間予報であっても誤差は不可避であり,社会からより高い時空間解像度の予測情報が求められる今日,短時間予報でもアンサンブル予報の導入が進められている.さらに,過去から蓄積された観測でデータを最新の予測システムに同化し直すことで,過去の大気の状態を4次元的に再現する「再解析」手法により,過去に災害をもたらした流れがどの程度の予測可能だったかを評価することも有意義である.

 台風や豪雨,豪雪など気象災害が差し迫った状況で防災・減災のために求められるのは,予報精度の更なる向上のみならず,誤差情報の的確な提供である.なお,火山噴火や原発事故などで汚染物質が一旦大気中に放出された後の挙動の予測は,基本的には気象予測の応用となる.この際,社会においても,誤差情報を含む予測情報をきちんと受け止められるよう日頃からの準備が求められる.予報に含まれる誤差を認識せず,出された予報を絶対視することは慎むべきである.反対に,誤差が不可避だからといって,予測情報を一切無視する向きもあるが,これも極めて無責任と言わざるを得ない.観測だけでは将来を見通すことは不可能であり,観測と予測を有機的に組み合わせることが何よりも重要なのである.