JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[U-24] 新型コロナウィルス感染症と地球の環境・災害

2020年7月13日(月) 14:15 〜 15:45 Ch.1

コンビーナ:松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境学域)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、和田 章(東京工業大学)、山中 大学(総合地球環境学研究所/神戸大学名誉教授)、座長:松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境学域)

14:18 〜 14:30

[U24-01] 人口密度に比例した総感染者数分布と今後の人類圏への示唆

★招待講演

*山中 大学1甲山 治1杉原 薫1 (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:新型コロナウイルス感染症、人類圏、人口密度、対人距離、混雑回避、首都一極集中回避

地球システムの一部として生物圏が作られて以来,初期の多細胞化から現在の人類を含む集団生活化に至るまで,ウイルスは生物種を選択して共存し,共に進化してきた.生物圏の多様性(種の数)や個体数は,物理量の変化が大きく純水(河川・降雨)供給も集中する海岸付近(陸海空3圏の境界)で顕著で,それにより地球表層の変化を緩和する役割を果たしてきた.従って農業,漁業,交通などの人間活動とそれに支えられた人口もまた海岸付近に偏在する.欧州の大航海時代が(ウイルスではないが)感染症で始まり,アジア・アフリカ・アメリカの生物資源収奪と植民地化で加速して現在に至る人口の偏在と交流が今また感染を本質的に左右している.従ってウイルス感染症は,地球システム科学・地球環境科学の観点でも研究していくべき問題である.

今回の新型コロナ禍に際し,我々は総感染者数(罹患者数および既に回復・死亡した者の数)が人口密度にほぼ比例して分布することを,日本47都道府県,インドネシア34州,欧州(WHO区分)54国,米国55州・領土について確認した(図参照).人口密度の逆数の平方根から平均対人距離(mean personal distance = MPD)を算出でき,これを用いると総感染者数はMPDの-2乗にほぼ比例する.MPDは,地球上の全陸地については(77億/1.5億km21/2≒140 mで,インドネシア泥炭地域ではこれとほぼ同程度であるのに対して,東京(12 m)やジャカルタ(8 m)などメガシティでは飛沫感染防止のための所謂social (またはphysical)distance(1~2 m)の数倍ほどしかない.飛沫感染は,エアロゾル・降水粒子の成長・輸送過程と本質的に同じであり,気候・大気環境依存性など生気象学・環境医学的な問題でもある.

感染の拡大に伴い前述の比例定数は日を追って増大するが,収束に伴いある値に漸近する.総感染者数を人口に感染率をかけたものとすると,最終的比例定数から感染率と地域面積の積が1 km2前後のオーダーの値になる.つまり面積が1 km2程度の地域の全住民が感染して終わることを意味する.この値は,日本(最小)・インドネシアでやや小さく,欧米ではやや大きい(ウイルス亜種か検査数によるのか判定できない).また自粛下での日用品買出し範囲,人口分布不均一や医療崩壊などの反映と考えられる比例関係からのずれがある.なおこれらの事実はCOVID-19感染の大きな特徴である20%のsuper-spreaderだけが感染させるという知見と矛盾しない.

政府専門家会議などが感染の拡大・収束予測に用いているSIRモデルは,前提とする閉じた対象地域の広さを陽に示しておらず,また基礎方程式が非線形であるため総感染数(IとRの和)の収束値(I→0になるのでRの漸近値)を簡単な式で表せない.本研究は多数の地域の感染状況に見られる人口密度あるいはMPD依存性という一つの普遍的性質から,最終的全員感染域の具体的な広さを実験的に求めたもので,その地域内の住民人口がSIRモデルにおける総感染数の収束値となる.このような解析を蓄積することで,予測モデルの改善を含む感染症や人間活動の理解の前進に繋がると期待される.

新型コロナに見られたメガシティの危険性は,市街地が就労地から居住地まで切れ目なく延々と続き,人々がその中を縦横に往来することによる.本研究の結果を考慮して,市街地を広さ1 km2程度,あるいは間隔1 km程度で区切り,言わば町と町とのsocial distanceを設ければ感染拡大を防止することができるはずである.江戸期には(百万都市江戸よりも)各藩の城下町で多様な産業・人材育成が行われたことを考えれば,過度な首都一極集中を止めてインターネットを最大限活用した新時代の地方分権を目指すことも一つの解である.


【図】2020年3月18~31日(紫),4月1~30日(青),5月1~31日(緑)の毎日における(a)日本47都道府県, (b)インドネシア34州, (c)米国55州(特別区・海外領土を含む),(d)欧州54ケ国(WHOの区分によりトルコ・旧ソ連を含む)の地域ごとの新型コロナウイルス感染症「総感染者数」(=罹患者数+回復者数+死亡者数)を,各地域の「平均対人距離(MPD)」(=人口密度の逆数の平方根)に対して両対数図でプロットしたもの.斜め破線はMPDの-2乗則でその上下のずれ(人口密度に関する比例係数の大小)は,感染率1(住民全員感染)となる面積の大小に相当する。